Grim Saga Project

神の火
 ~ Va-Elde(ファ・エルデ)

 
 
 
 
 
むかーしむかし。
 
あるところに。
 
たくさんの かみさまが いました。
 
 
 
かみさまたちには  ほしいものが ありました。
 
それはきらきらと かがやいていて とてもうつくしいもの。
 
でもそれが なにかはわからないのです。
 
 
 
それはとてもとおいばしょにあって いつでもあるわけではないんだそうな。
 
ずっとほしかったかみさまたちは いっしょうけんめいさがしつづけました。
 
そしてついに ひとりのかみさまが たからものをみつけました。
 
 
 
それは にんげんだったのです。
 
かみさまは とおいくにから にんげんをつれてかえりました。
 
 
 
めでたしめでたし。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「それがどうして、色んな人がいる理由なの?」
 
少女はきょとんとして母親に聞き返した。
 
 
 
「ここがその神さまがいた国で、元々色んな人がいたのよ」
 
母親が少女に優しく語りかける。
 
 
 
「じゃあ連れてこられた私たちよりも前からみんなここにいたんだ」
 
幼い少女は持ち前の賢さを発揮して、自慢げに言った。
 
 
 
「そうね」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
語り部の神は微笑んだ。
 
「なんて都合の良い童話だ」
 
そう。
真実は違う。
 
たまたま耳にした童話は「神の火」という題名が付けられていると知った。
見ようによっては「宝物」が「神の火」と読めないこともない。
 
が、それも違う。
 
今から約一万年前、そして約二千年前。
二度に渡る神々の大きな争いが起きた。
 
前者を「神界緋戦」、後者を「神界綺戦」と呼ぶ。
神は万能ではない。
それを証明するかのような血腥い戦争だった。
 
 
 
「グランドクロス」
 
 
 
それが童話の中の宝物。
神ですらその正体はわかっていない。
 
話は更に遡らなければならない。
太陽系は一人の神の手によって創られたものらしい。
今でこそ銀河系を一つ創造するほど強大な力を持った神はいない。
が、当時は存在したのだという。
 
「クロスシェリン・アスローシカ」という名で呼ばれた神は数億年の昔、神王だった。
太陽系を創造したというクロスシェリンがなぜそのようなことをしたのかはわからない。
人間たちに神々と呼ばれる私たちが存在するこの黒陽系の模倣小銀河、太陽系。
生態系などは大きく違い、エルハイムの模倣星・地球に生まれた人間が特に異質だ。
我々神、それも上級神力を持った者の容姿に似ている。
これがクロスシェリンの意図だとすると、どういう意味・理由があるのだろう。
 
語り部として話すべき内容かどうかは別にして。
グランドクロスはクロスシェリンの遺産だという見方が強まっている。
太陽系の惑星位置関係・位相・重力の関係で、凝縮されたエネルギーコアが発生する。
一万年に一度、周期的に。
いつから発生していたのかはわからない。
なぜ黒陽系に酷似しているはずの太陽系でだけ起こるのかも未だ判明していない。
 
 
 
ここ数回のグランドクロスにおいて、神々の間では
 
「グランドクロスと神力をシンクロさせることで、その強大な力を得ることが出来る」
 
という説が浸透し、光の中に身を投じる者が増えていた。
 
前回のグランドクロスが発生したのが約一万年前。
その時に起きた大きな争いが神界緋戦だ。
黒陽系での争いに重ねて、太陽系も舞台として戦争が起きた。
 
グランドクロスのエネルギーコアが持つ力が、神の持つ力「神力」の波動と類似している。
それを根拠に、神がその力を得ることが出来る、と考えられている。
だが、それが真実だとするならば、シンクロさせるための方法が違ったのではないか。
だから飛び込んだ神々は戻らない。
 
太陽系に渡った神々は肉体を持たない。
人間の身体を媒体として憑依することで、神は一時的に肉体を得ることが出来る。
太陽系での戦争はこの状態を利用して行われた。
 
人間や地球への被害は、時折人間が起こす兵器を使った戦争の比ではなかった。
神力を宿した人間そのものが兵器となる争いは、黒陽系での争いと似ている。
彼らの力は地球を壊滅寸前に追い込んだ。
人間も滅亡寸前までその人口を減らしたのだ。
 
これを「神の火」と呼ぶ。
 
 
 
 
 
グランドクロスのエネルギーコアは地球上に現れる。
神界緋戦時のグランドクロスも例に漏れず。
ある大陸上に発生したエネルギーコアに、一人の神が身を投じた。
人間に憑依した状態でクロスシェリンの恩恵を受けようとした初めてのケースだった。
 
 
 
 
 
「裏切りの神シキよ、お前には私の力を授けることは出来ぬ」
 
 
 
 
 
争いを続けていた神々全ての脳に直接響くメッセージが届いた。
私も直接それを聞いた一人である。
 
クロスシェリンは生きている。
そういった様々な憶測が飛び交う中、エネルギーコアは消えてしまった。
神界緋戦は幕を閉じたのだ。
 
 
 
「クロスシェリンの力を授かるには、肉体を持っている必要がある」
 
 
 
しかし時既に遅く、地球に存在していた人間のほぼ全てが死滅していたのだ。
「神の火」によって。
 
このままではクロスシェリンの力を授かる方法がなくなってしまう。
神界緋戦が終結した段階で生きていた神は、その憑依していた人間を黒陽系に連れ帰った。
神の肉体は銀河系間の次元歪曲を通過できなかったが、人間の肉体は通過することが出来たのだ。
 
 
 
人間は生きていた。
地球においても人間は絶滅しておらず、わずかな動物を捉え、食し、生き長らえていた。
その後、植物をも食することを発見し、人類は農耕を発見する。
 
地球に残された人間たちの間では、自分たちに対する天罰と受け止める向きがある。
そこで生まれた「神の火」という言葉が黒陽系全般でも広がっているのだ。
人間たちは、小さな太陽の如きグランドクロスのエネルギーコアを指して「神の火」と呼ぶようだが。
 
 
 
そして黒陽系の惑星エルハイムにおいても人間は生きた。
元々エルハイムに生息していた様々な生態系と隔離されたり、共生したりしている。
黒陽系に住まう人類は、こうして神界緋戦を機に誕生した。
 
黒陽系人類は太陽系の生存者たちよりも遥かに優秀だった。
神々が憑依対象として選んだのだから当然だ。
地球ほど甚大な被害を受けなかったエルハイムで文化が発展するのは早かった。
 
 
 
 
 
これが真実。
だが、神界緋戦より約八千年の後、神々は争いを繰り返したのだ。