Grim Saga Project

緊急と時間と憂鬱と 57話

 
 
 
 
 
 激しい後悔の念が、風雨を襲っていた。
 
 私が逃げなければ。
 私がもっと早く動いていれば。
 私がエンデル・フロシェールを頼っていれば。
 
 それでも第一の殺人は、どうしても止めることができなかった。
 いや、本当にそうか?
 
 そもそも、話を総合すると光平は私のために一連の事件を起こした。
 私がもっと光平に寄り添っていれば良かったのだろうか。
 光平…。
 
 もうずっとそんな考えがぐるぐると頭を回っている。
 
 どうして私の手元にエンデル・フロシェールがいるのだろうか。
 この事件を止めるためだったのだろうか。
 
 ただ、私の手には羽が生えて意思を持つ万年筆がいることは事実だ。
 それは変わらない。
 私はこれからどうすればいいのだろう。
 
 
 
 光平が収監されてから数日、まだ刑期は確定していない。
 それはこれから。
 それでも刑事事件を起こした犯罪者であることに変わらない。
 
 面会する機会を得た。
 私は何を話せばいいだろう。
 これから私は光平とどう接すればいいだろう。
 
 幼い頃から共に時間を過ごした。
 幼馴染。
 優しくて、お節介で、弱くて、…。
 
 それでも私は光平と向き合わなくてはいけない。
 この先ずっと。
 
 無差別殺人犯。
 受け容れることはまだできなくても、現実を理解はしている。
 
 
 
「久しぶり」
 
 透明な壁越しに向かい合った光平は憔悴しているように見えた。
 少し痩せたように思う。
 
 いくつか声を掛けたが、彼はこの日一言も発することはなかった。
 
「私、また来るから」
 
 ぴくりと光平が反応したような気がした。
 それでも俯いたまま何も反応しない。
 
 ツライ。
 ここに来るのは。
 心が引き裂かれそうだ。
 でも逃げてはいけない。
 もう二度と。
 
 それでも今日も明日も私は生きなければならない。
 彼に生きて償えと言った以上、私も強く生きなくてはいけないのだ。