緊急と時間と憂鬱と 53話
エンデル・フロシェールにはその未来が見えた。
風雨の大切な存在が失われる未来が。
4人目の被害者として発見される空山光平。
そして、そこから脇田と姫森が中心となって、警察が捜査を開始する。
最悪な未来はそれだけでは終わらない。
本当の4人目の被害者は地倉大気。
4人もの人間を殺した凶悪犯罪者・空山光平は他殺ではなく自殺だったという結論が導かれる。
そして、それは園田の洗脳によって、実際に光平が起こす未来なのだ。
羽の生えた万年筆が導いた結論。
最悪の未来が、過去となる。
その場所をエンデル・フロシェールは指し示した。
風雨の通う大学にほど近いアパートの一室。
罪もない子どもたちを三人も殺した犯罪者空山光平はそこにいた。
縛られた地倉大気も。
「空山君。
君が万能になるために今取り得る手段は何かわかるかい?」
三宮晋太郎は気の弱い人間だ。
放っておいても何もしない。
そう判断した園田は「誰かに言った時点で君は空山君と同罪だよ」と伝えた上で解放したのだ。
そして空山光平は薬を打たれ、縄を解かれた。
目は血走り、虚ろ。
「ほら、君が万能だと評していた男ですら私に掛かるとこのザマだよ。
どう思う?
本当に彼は君が目指していた万能なのかな?
彼の能力では君が守りたかったモノは守れないのに?
じゃあどうすればいいか教えてあげよう」
大気がもごもごと何かを叫ぶが猿ぐつわのせいで何も伝えられない。
目の前の尋常じゃない状態の光平を救えないどころか、自分の失態で、自分をダシに使われている。
食え。
そう言ったのか?
この半端な万能はただの有能だよ。
だからこの力を君が吸収して更に上に行けばいいじゃないか。
そして更なる昇華は現世ではできない。
4つもの命をそうすることができたなら、最後は自らの命を捧げるのだ。
それで君が望む万能は完成する。
園田は部屋の梁にロープを結びつけた。
ほら、5つもの偉大な功績を残して私をも超え行く君に敬意を表しようじゃないか。
最後の儀式を行うための道具だけ私が用意してあげたよ。
それだけ言うと、園田は部屋を出て行った。