緊急と時間と憂鬱と 41話
もう一つ。
エンデル・フロシェールが単に尋常じゃない万年筆であることだけではなく、ためらいを覚える理由がある。
彼女の、なんというか、そう、人格。
人格そのものへの奇妙な既視感のような感覚がある。
現実世界の人間としての彼女を知っているような、そんなはずもないような。
なんせ言いようもない気持ち悪さのようなものがある。
すべてを見透かし、悟ったような彼女。
それでいてまるで人のような。
頭はいいのだろうか、大気とか未知とか、そういう次元でもなく、どんな尺度でも測れないのだ。
私は彼女と対話することを恐れている。
そう言っても過言ではない。
まるで私のすべてを彼女が知っていて、少しずつそれを暴かれるような、そんな感覚すらある。
しかし、何をどう言おうと、もう彼女に頼らずに耐えられる限界ギリギリのところまで来ている。
事態は一刻を争うのだ。
私は自宅で一人、エンデル・フロシェールを握りしめた。