緊急と時間と憂鬱と 35話
これで3回。
殺人者は自らに力が漲るのを感じた。
初めは衝動。
だが、ある種の冷静さもあった。
そしてこの手順で手続きを行うことで、自分が生まれ変わることが出来る確信があった。
理屈や根拠などとは次元の違う感覚だ。
自分は気が狂ったわけではない。
選ばれたのだ。
だからこの下らない世の中、人間社会、法律などに制約を受けたり、虐げられるなどもってのほか。
これまで抱えてきた劣等感から完全に開放された。
一つの高みに上ることを許された。
強さ。
賢さ。
美しさ。
何に於いても、何一つ優越感を覚えずに来た。
これまで自分より高い位置に居ると思っていた他人達は、自分よりも遥か下等な生物だったのだ。
下らない制約に縛られないために、犯人は3人目の殺害現場を既に離れていた。
既に人間という括りで認識されるだけでも心外だ。
仮に何らか拘束されても、漲る力が弾き返すであろう。
だがそれはダメだ。
一連の行為は意味のある儀式であり、手続きだ。
無作為に人間を殺してしまうことは、そのルールから逸脱してしまうことと同義。
あくまでも冷静に事を進めなくてはいけない。
殺人者はそんな思いに一人耽っていた。
その様子を遠くから伺っている者がいた。