Grim Saga Project

緊急と時間と憂鬱と 32話

 
 
 
 
 
 姫森神菜はこのたった2週間で3人も子どもたちが殺された衝撃にうちひしがれていた。
 
 これまでも脇田と共に殺人事件を担当したことはあったし、死体も見たことがある。
 だが、そのどれも被害者は大人であり、動機は金か人間関係(主に恋愛感情)のもつれ。
 同情の余地はあれど、事件に対して一種の割り切りが出来た。
 
 今回は勝手が違い過ぎる。
 今調査した結果からの判断とはいえ、被害者は罪なき子どもたち。
 その親や祖父母、親族の嘆き・慟哭。
 声を掛けることも出来ない。
 見ているだけでとても辛い。
 何度も無力感に苛まれ、泣きそうにもなった。
 
 もう嫌だ。
 いい加減にして。
 どうして?
 子どもたちが殺されなきゃいけない?
 
 
 
 やりきれない思いが込み上げる。
 が、その時ふと脇田が視界に入った。
 今までに見たこともないような表情だ。
 
 …いや、違う。
 難しい事件に当たり、考えている時の顔。
 それだけじゃない。
 
 怒っている。
 凄まじい怒りと戦っている。
 それでも考えている。
 
 許されるべきではない犯人を捕まえることだけに集中している。
 いや、しようとしている。
 脇田もやりきれないのだ。
 
 自分達がもっと早く犯人を捕まえていれば、とも思ったが、以前口に出して怒られた。
 
 んなこと考えて自分を責めても何にもならねぇ。
 事件解決に集中しろ。
 
 そう言われたことを思い出した。
 姫森神菜はしばらく待った。
 脇田の邪魔をしてはいけない。
 10分ほどして、姫森神菜は口を開いた。
 
 
 
「脇田さん、コーヒー、行きませんか?」