緊急と時間と憂鬱と 31話
犯人はかなりの警戒体制の中、見つからずに犯行を行った。
警察は、手口から見て衝動的な犯行だという見方で意識統一されていて、実際用意もさほど周到ではない。
だが、実はそれも含めて犯人の打算だった可能性はないだろうか。
脇田も姫森神菜も同じ考えが頭をよぎった。
更に言えば、犯人は複数人である可能性も。
牧村と三宮晋太郎。
動機はまったくわからないが、可能性はゼロではない。
実行犯と見張り役がいれば、警戒されても比較的リスクは減る。
いや、しかしどうもしっくり来ない。
脇田は第三の犯行現場で、肩で息をしながら考えていた。
張り込み場所から走って来てたったの7分。
既に周囲を警戒していた警官達に増員を掛けて包囲網を張った。
遺体はまだ温かいほど発見が早かった。
必ず犯人は近くに居る。
ふっ、と一息。
だいぶ息が整ってきた。
牧村達複数犯の仮定がしっくり来ない理由を改めて考えてみる。
一番の理由はタイミングかもしれない。
牧村達が犯人だとすると、警察の来訪を受けた直後に犯行を実施した理由がない。
どうやって脇田と姫森神菜の監視を免れて、帰宅の途に着いたかはまだわからないが、そんなことはすぐに明らかになる。
当人達に聞けばいい。
度胸もかなりのものだということになる。
今このタイミングで、つまり警察と面と向かって話をした直後に人を殺すという神経は相当図太い。
並大抵の強心臓ではない。
そういう観点では、牧村は可能に思えるが、実行犯と想定すべき三宮晋太郎にはとてもじゃないが無理だ。
二人とも気が狂っている?
いや、それは一番してはいけない仮定だ。
今じゃなきゃいけない理由があった?
これまでの2件はフェイクで、今回が真の目的だった?
そうか。
一番しっくり来ないのは、直接話した印象が彼らは犯人ではないと訴えている。