緊急と時間と憂鬱と 27話
おとといのことだった。
久しぶりに聞いた晋太郎の明るい声。
牧村さんが帰って来た。
彼はそう言った。
正直安心した。
たったの2ヶ月で晋太郎は驚くほど憔悴した。
彼の異変にはすぐに気がついた。
わかりやすくて、単純で、明るくて、マイペースで。
そういう晋太郎が穂乃香は気に入っていた。
変に勘繰ったり駆け引きしたりしなくてもいい。
正直そんな恋愛はもうたくさんなのだ。
晋太郎の上司、牧村は頭の良い女性だと感じた。
何度か晋太郎と3人で食事に行った。
だが、気を遣って呼んでくれたのは初めの一度だけ。
それで穂乃香は牧村のことを理解した。
深夜まで仕事の日が続き、女性の上司と一緒に作業をしていると聞いたら、いい気はしないだろうし、下手すれば疑われかねない。
そういう懸念を払拭するために穂乃香とも会って食事を、と。
晋太郎と穂乃香を見て、牧村はすぐに察したようだ。
晋太郎に何か変化があれば穂乃香が見破るから、今の状態であれば心配する必要がない。
期せずして、その変化は別の形で発生することになった。
また、牧村は穂乃香を気に入った。
互いに一目置いた、といったところだ。
その中心にいる晋太郎はそんなことはよくわかっておらず、単に牧村と穂乃香の気が合いそうで良かった、ぐらいにしか思っていなかったのだか、そこが晋太郎の良さでもある。