緊急と時間と憂鬱と 22話
牧村レイは2ヶ月ほど仕事を休んでいた。
夫が急逝したためだ。
レイはまだ28歳。
生涯の伴侶だと信じた相手を失うには若すぎた。
何よりもまだ引きずっているのが、夫の死の原因がわからないこと。
明朗活発、頭も切れて、ルックスもいい。
しかし一番素晴らしいのは、その性格。
正直、顔も頭も自分には不釣り合いなほどだったが、レイはそんなに高望みはしておらず、夫の人間性が大好きだ。
だった、とはまだ言えないし、言いたくない。
特に健康面にも不安はなく、交通事故だったわけでもない。
彼が一人で実家に帰っていた時に、突然発作が起きたらしい。
レイはそれについて、まだ実のところ、納得がいっていない。
いくつか不自然な点があった。
まずは翌日までレイに連絡が来なかったこと。
発作が起きたのは真昼間だったようだ。
それなのに連絡があったのは翌日の夜。
そして急いで駆け付けた病院で、レイは夫の姿を見ることが出来なかった。
そこにはうなだれた夫の両親と、我を忘れた夫の妹がいた。
夫の妹は異常なほど、兄を愛していた。
兄妹愛のレベルに留まるかと言えば、答えはNOだ。
結婚前の夫からもそれは重々聞かされており、事前にその目で確かめておいた方がいい、とも言われた。