緊急と時間と憂鬱と 19話
「よお、マスター。コーヒーもらえるかい?」
脇田と姫森だった。
まだ昨夜の訪問から丸一日も経過していない。
だが、二人はその間、凄まじい質と量の仕事をしてきた。
初動捜査。
事件が起きた直後の文字通り初動の捜査で、その重要性は改めて追求するまでもない。
二人は初動捜査に相応しい働きをしてきたところだった。
一粒の手掛かりさえ逃さぬように。
一部の報道でも流れたらしいが、早くもこの二つの事件は同一犯で確定。
手形と手袋の繊維が一致。
靴型は別だったが、二つの事件の間が一週間も空いているため、犯人が靴を履き変えていてもおかしくはない。
足のサイズはどちらも26cmから26.5cm程度と見られており、別人を示唆してはいない。
脇田は既に同一犯確定が報道されているのが気に入らなかった。
情報を公開すればするほど、犯人の警戒が強まる可能性がある。
更に脇田はマスメディアが嫌いだ。
つまらないゴシップに血眼になったり、真実と異なる内容でも面白ければ話題になる。
見る人間や取り上げられる人間の気持ちへの配慮など微塵も感じられない。
そしてそんなマスメディアに情報をリークしている人間がいるということも癪に触る。
それが警察という組織として決めたことなのか、本質的にリークなのか、興味すらなかったが、恐るべき腕前の記者がいるわけでもなければ結局は私利私欲のため、もしくは体面的な意図で情報を流している。
それが気に食わない。