緊急と時間と憂鬱と 17話
私のイヤな予感は当たって欲しくない時には、まず当たる。
大気は普段通りを装っているが、私にはわかる。
緊迫している。
優しい笑みをたたえてコーヒーを飲んでいるその表情さえも、見たことがないほど険しく見える。
未知もマスターもいつも通りだけど、そうじゃない気もする。
なんだか怖い。
開店前の Twilight Wing の大好きなムードさえ恐ろしく感じた。
「なぁ、未知、風雨」
大気が切り出す。
私はドキッとした。
ん?と未知が小さく答える。
「光平、今日からまたおかしくなってないか?」
「なってる」
未知が即答した。
私はフリーズした。
まるでブルーパニックを起こしたパソコンのように、すべての入力を受け付けない。
私は大気がこう切り出すであろうことを恐れていたのだと気付く。
わかっていたんだ。
心のどこかでその可能性について言及していたんだ。
そしてそれを見たくないがために封印していた。
「悪い、今日はあまり時間がない。
もう行くわ」
大気は計算し尽くされたようなスマートな仕種で席を立った。
コーヒーはきちんと飲み干されていた。
後には重たく淀んだ空気が残された。