緊急と時間と憂鬱と 15話
脇田と神菜は30分程滞在していただろうか。
コーヒーは冷めないうちに飲み干され、二人もすぐに出て行った。
「また来るよ」
脇田はそう言い残して行った。
「見慣れないお客さんね。
マスター、どうかした?」
小さなテーブル席に座っていた若い女性二人のうちの一人が、おもむろにマスターに声を掛けた。
水谷未知だった。
「なんでもねぇよ」
とマスターは答えたものの、風雨も違和感を覚えてはいた。
二人は昨夜の続きと言わんばかりに光平のことを話したり、いつも通り他愛もない話をしたりしていたのだが、異質な客の訪問で興味はそちらに向いた。
常連ではない客は普段から当然いるが、先程の二人には何か特殊な感覚があった。
二人はその感覚をアイコンタクトで共有し、普通に会話を続けた。
未知は単純な興味を持っていたが、風雨はどちらかといえば好ましくない予感のようなものを覚えていた。
未知と風雨に感じ方の違いはあれど、さりげなく振る舞うのがベストだと判断したのはこの二人としては自然。
話の内容はわからなかったが、時折交わすマスターとの短い言葉も意味ありげに感じられた。
何でもないと言ったマスターの態度も一層不自然さを際立たせたが、そんな結果になるとわかっていてもマスターはごまかしたのかもしれない。
風雨はそこまで考えた。