緊急と時間と憂鬱と 14話
「警部、あの…」
「あ?なんだ?」
神菜はありがとうございます、と言おうとしたが、口ごもってしまった。
「落ち着いたか?」
「はい。すみませんでした。大丈夫です」
「当たり前だ。そうでなきゃ困る」
神菜は更に気がついた。
自分が感情的になっていたのだと。
今までになく、幼い被害者。
罪なき子どもの命が残酷に失われた現実へのやり場なき怒り。
怒りの感情を持つのは不要なことでない。
だがその感情に支配されてはいけない。
「さあて、ヒメ、次にやるべきことはなんだ?」
脇田が小さな声で問う。
「現場の状況整理。同一犯かどうかのジャッジ。再度聞き込み。目撃情報の収拾、整理」
店には他にも数組の客がいて、それぞれに会話をしていた。
だが、適度な音量のジャズの音に掻き消され、どの音もうるさくは感じない。
脇田も神菜もこの店がすっかり気に入っていた。
「コーヒーがうまいな」
「そりゃどうも」
脇田の呟きにマスターが返す。
脇田は至るところでコーヒーを飲むせいか、多少味にはうるさくなっていた。
マスターはこの二人が例の幼児殺人事件を担当しているのを知っていた。
この二人は捜査の合間にここに来ている。
二人はまたここに来る。
そんな気がした。
「まさか…、またなのか!?」
マスターが脇田と神菜に問う。
やはり声は小さい。
「ああ、ついさっきな。二人目をやられた」
脇田の返事に、ちきしょう、とマスターが呟いたのはもっと小さな声だったが脇田も神菜もその声をはっきり聞き取った。