緊急と時間と憂鬱と 13話
脇田が姫森神菜をコーヒーに誘うのは珍しいことではなかった。
コーヒー、イコール、小さな捜査会議。
今日も当然そうだと考えたが、今回はまだ初動の段階。
そういう意味では珍しい。
外は暑い。
夜になると幾分マシとはいえ、どうやら今年は記録的な猛暑だとか。
外回りの多い仕事なので暑さは堪える。
異常な暑さは迷惑以外の何物でもない。
逆に冬の寒さは大して困らない。
歩くとすぐに身体が温まる。
薄着に厚めのコートを羽織るようにしておいて、暑くなると一枚脱ぐだけで暑さから解放される。
一年目はそんなこともわからずに冬でも汗だくになったものだ。
脇田は夏でもホットコーヒーを頼む。
普段なら神菜は迷わずアイスコーヒーを頼むところだが、脇田に合わせていて慣れてしまった。
いや、そもそも神菜は元々はコーヒーなど飲まなかったことを思い出した。
脇田とコンビを組み、この儀式を行うようになってからコーヒーを飲むようになったのだ。
大体捜査が行き詰まると脇田はコーヒーをご馳走してくれる。
見落としの確認、情報の整理、軽いリフレッシュ、お互いの情報交換や意見交換。
まったく関係ない話をすることも、たまにだがあった。
そしてこの儀式の後、捜査は進展を迎える。
そう。
普段脇田は神菜にコーヒーがホットでいいかなど確認しない。
神菜はふとそれに気付き、持ち前の頭脳で脇田が自分を気遣かってくれたのだと思い至った。
姫森神菜は極めて優秀な頭脳を持っていたが、自分に向けられた感情に対しては凄まじく鈍感だ。
今、脇田の心遣いに気付いたのは奇跡的なことだった。