緊急と時間と憂鬱と 11話
「ヒメ、コーヒーでも飲んでいこう」
脇田警部は部下の姫森神菜をヒメと呼ぶ。
脇田はこの道10年。
ベテランと呼ぶにはまだ若かったが、署内でも信用を得始めた中堅に位置してきている。
33歳で既に警部の肩書を背負っていることもその証拠の一つではあったが、当人にとってはどうでも良いことだった。
脇田の捜査の武器はとにかく足。
科学や技術が発達しているが、どうしても最後はヒトの足で集めた情報とそれをまとめる頭と勘。
結局その成果が実績にもなっているのだから、どれだけ技術が進化しようとも人間がキーであるという脇田の持論はあながち間違ってはいないのかもしれない。
とはいえ。
進化した科学技術をないがしろにしているわけでもない。
使えるものは機械だって使えばいいのだ。
その点も脇田の柔軟さだと言える。
細かい記録を残したりデータ化したりするようなちまちました作業は苦手だが、そこは部下のヒメが居てくれて助かっていた。
今回のおそらく連続殺人、ヒメにとっては一番被害者が幼い事件である。
心を痛めて疲弊しているだろう。
まだこの2件目に関しては初動捜査の段階だが、早いうちからヒメが潰れないようにはしておくべきだと考えた。
二人は近くに喫茶店を探したが、めぼしい店が見つからず、仕方なく酒を飲むつもりもなくバーに入っていった。