緊急と時間と憂鬱と 03話
「シュアン」
「あ?」
シュアン。
私はマスターを昔からそう呼んでいる。
「星修庵」というのがマスターの本名で、それをもじったあだ名だ。
みんなといる時はマスターって呼んだり、要は気分次第。
「いっつもお客さん入ってないのに、よくお店潰れないね」
「余計なお世話だ」
まあ、私たちが足しげく通っているのは遅くとも日付が変わるかどうかの時間ぐらいまで。
もっと遅い時間に客が入るのかもしれない。
珍しく出されたミックスナッツだって、そう考えると昨夜お客さんが入っていた形跡かもしれない。
とはいえ、私としてはこの落ち着いた雰囲気がベストプレイス。
店は潰れて欲しくないが、流行って賑わって欲しくもない。
つまり今のままが好きなのだ。
しばらくして開店したが、だからといって特に変わりはない。
マスターが風情ある木造の扉に「OPEN」の札を下げる程度。
「CLOSE」でも鍵さえ開いていれば構わず入ってしまうが、私たち以外にそんな客は見たことがなかった。