時空と人と不穏と 20話
「やあ、桐島先生、こんなところで何をしているんですか?」
「あら、真崎先生、珍しい。ここは私のお気に入りなもので、良く一人でここで考えごとをしているんですよ」
「そうですか。それじゃあお邪魔だったかな」
「いいえ。今日に限っては残念ながら、貴方が来ないで欲しいと考えていたところに現れてしまいましたから、立ち去っていただくわけには行かない」
真崎が沈黙した。
桐島が小さく息を飲む。
緊張していることを悟られたくなかった。
「どういうことか説明していただけますか?」
真崎の声のトーンが一段落ちた。
「それは貴方が一番ご存知だからここへきたのでしょう?」
桐島は平然と振る舞う。
真崎がゆっくりと歩み寄る。
「私がすべてを知っていたとして」
桐島は気丈に続ける。
真崎は歩みを止めない。
あと10メートル、10歩も進むと手が届く。
私は飛び出すかどうか迷った。
それを制するように桐島が右手を振り払うようなモーションを起こしながら続ける。
「誰にも言わずにここへ来たと思っているんですか?」
真崎が立ち止まる。
逡巡。
屋上の入り口を振り返る。
逃げることを考えてたのだろう。
そこには空山光平の姿がある。
「手紙に書いたはずです。お話がしたい、と」