Grim Saga Project

時空と人と不穏と 16話

 
 
 
「まだわからないの?」
 
どこからか声が聞こえる。
ここはどこ?
あなたは誰?
 
「視野が狭いわ」
 
そんなこと言われても。
確かにまだ見えていないものがきっとあると思うけど。
 
「とにかく私を出しなさい」
 
え?
私を…出す…?
 
「ほら、ぼーっとしてないで」
 
あ、ああ、はい。
私は目を覚ました。
自室の机に突っ伏して眠っていた。
今のは夢?
いや、違う。
あれだ。
疲れるから嫌なのに。
でも、そう、こうなったら彼女と対話しないわけには行かない。
 
私は羽根付きの万年筆を愛用のペンケースから取り出した。
綺麗に折りたたまれた羽根がゆっくりと開かれてゆく。
 
「そう。賢いわ。ちゃんと覚えていたのね」
 
忘れるわけがないではないか。
今までにも何度か、この人の力を借りている。
いや、人なのかすらわからないけれど。
ここに、私の手の中に、私ではない確立された個の意思が存在することは確かなのだ。