時空と人と不穏と 01話
あれ?ない?
おっかしいなあ…
そんな呟きが聴こえた。
S高校3年C組の教室。
この冬が終われば、今ここにいる人の大半がそれぞれの道を歩む。
青春真っ只中の高校3年生たちの一コマ、といったところだ。
まだ寒い冬のある日の放課後、クラスの女子の一人が自分の鞄をもそもそと漁っている。
そして出たのがそんな一言だった。
「おっ!キョーコちゃんどしたのー?」
「あ、光平。ちょっと聴いてよー!」
「話聴くだけ、って得意分野なんだよねー」
「聴くだけじゃなくて出来れば助けてよ。頼りになんないんだからあ」
「んだからどうしたって?」
「お財布がないの」
「えっ?」
「だーかーらー!お財布が鞄の中にないの!」
光平はお気楽に、そんだけ?と聞きかえして殴られた。