心想夕戯 ~the fob watch ferrying memories
夕闇に友想ふ ~friends
1-15. 霍乱された鬼 ~the devil getting sunstroke
柚木園葉。
彼女が夕華を憎んでいる。
本当だろうか。
わからない。
要点すべてを打ち明けた相手、香田七海。
彼女が嘘をつく理由は少なくとも今は思い当たらない。
可能性の選択肢がここに来て増える。
とりあえず、今どうするのが最善か。
それを考えるべきだ。
「結城さん、あそこよ」
香田は真相を聞いた後、進路を変えていた。
夕華の自宅からどの小学校の学区なのかがすぐにわかったようだ。
香田の言葉に、私は軽く頷いた。
夕華はすぐに見つかった。
小学校に忍び込み、屋上まで上るとそこに夕華が、いた。
掛けられていた布を取り去ると、本当に拘束されている。
いざ、実際に目の当たりにすると恐ろしい。
速くなる鼓動。
「助けましょう」
香田が言った。
固く結ばれた縄をほどくのに時間がかかる。
その隙に香田は、夕華の口のテープを剥がし、中の詰め物を取る。
おかしい。
何かが。
拘束から解放する時に二人で作業をする自分たちの姿。
これが妙にしっくり来た。
おぼろげながら夕華は、拘束の解放を見ていたのかもしれない。
それが既視感的な印象を受けた原因だろうか。
もう一つ気がついた。
犯人は夕華を抱えて柵を乗り越えられるような体型ではなかった。
未来の記憶がふと頭をよぎる。
最後の犯行の直前、犯人は一人だった。
違う。
一人じゃなかったんだ。
突き落とした犯人以外にもう一人いたんだ。
だとすると、今の可能性として一番高いのは木崎・田嶋共犯説か。
縄がほどけた。
「夕華!!」
何度か呼びかけて、頬を叩くと夕華は目を覚ました。
まどろみから抜け出せない様子。
何か薬を盛られているのだろう。
夕華に布がかかっているかのように、布を直す。
だんだんと、空が赤みを帯びてきた。
夕華もだいぶ意識を取り戻し、状況を理解しつつある。
私と香田で夕華に肩を貸し、ゆっくりと移動する。
私たちはひとまず別のプレハブの陰に身を隠した。