Grim Saga Project

心想夕戯 ~the fob watch ferrying memories
 夕闇に友想ふ ~friends

 1-14. 敵か味方か ~us-or-them

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 放課後。
 香田の道案内で夕華の家に向かう。
 
 音楽の授業での会話の後、私は様々な可能性を考えていた。
 
 香田が犯人の可能性。
 嗅ぎ回っている私を始末するための演技?
 …ない。
 
 それ以外の場合、とりあえず香田と行動を共にすることは私にとって、プラスに働く気がする。
 
 木崎犯人説、木崎・田嶋共犯説、もちろんまだ見ぬ犯人の可能性だってある。
 
 
 
 
 
 「結城さん、ずいぶんゆっくり歩くのね」
 
 「急ぐ理由がないから」
 
 「あはは、なるほどー。
 私、アナタと話してみたいと思ってたし、ちょうどいい」
 
 「私と?…どうして?」
 
 「日比野さんもそうなんだけど。
 独特の雰囲気を持ってる人に興味があるの。
 好き、と言い換えてもいいかもね」
 
 「ふーん」
 
 「どこが、って言われてもわからないんだけどね」
 
 「私から見たら香田さんも十分独特だと思うけど」
 
 
 
 
 
 本心だった。
 香田と夕華。
 二人のライバル関係は傍目に映るほど、淀んだものではないのかもしれない。
 
 私は思い付きで一つ決意をした。
 ふっ、と軽く息をはいて口火を切る。
 
 
 
 
 
 「誰を思い描いて“誘拐”って言ったの?」
 
 「…どうしたの?」
 
 「教えて」
 
 
 
 
 
 少し間が空いた。
 立ち止まっていた私は、香田の目から視線を逸らさなかった。
 
 
 
 
 
 「いいわ」
 
 
 
 
 
 私同様、真剣な表情で香田が答えた。
 ニッと左の唇が持ち上がる。
 
 
 
 
 
 「どうしてそんなことを聞くのか教えてもらってからね」
 
 
 
 
 
 読み通りだった。
 香田を味方につける。
 
 
 
 
 
 「夕華が殺されるの、今夜」
 
 「え…?
 何言ってるの?
 なんでそんなことが…」
 
 「そこまで説明してる時間はないし、きっと信じない」
 
 
 
 
 
 香田は少し黙り込んだ。
 そしてゆっくり歩き始める。
 私も少し遅れて歩き出した。
 
 
 
 
 
 「説明不十分よ、結城さん」
 
 「でも貴女は私の言ったことを信じてる」
 
 
 
 
 
 いつしか歩くペースは普通になっていた。
 冷静に振る舞っているが、香田の心境に変化があったのだろう。
 
 
 
 
 
 「日比野さんを憎んでるのは、きっと柚木さん」
 
 「え!?」
 
 
 
 
 
 意外な名前だった。