Grim Saga Project

心想夕戯 ~the fob watch ferrying memories
 夕闇に友想ふ ~friends

 1-13. 両刃の剣 ~a double-edged sword

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 音楽は気ままな授業ぶりだった。
 課題発表が近いせいだ。
 音楽室にある楽器から一つを自由に選んで、課題曲を演奏する、という内容。
 みんな自由に練習している。
 
 教師は適当に徘徊して、気がついた感想を色んな生徒に伝えたりしている。
 練習をする気にはなれなかったが、体裁上楽器を手にしておくことにする。
 
 私はバイオリンを選択していた。
 バイオリンは選択者よりも本数が少ないため、交代で使うことになっている。
 空きを待つ私にバイオリンが差し出された。
 
 
 
 
 
 「どうぞ」
 
 
 
 
 
 香田七海だった。
 ニッコリと笑っている。
 そういえば彼女はバイオリンが得意だと聞いた気がする。
 
 
 
 
 
 「ありがとう」
 
 
 
 
 
 実のところ、私も課題曲を演奏するにあたって不安はなかった。
 
 
 
 
 
 「いつもは日比野さんと交代で使ってるんだけどね」
 
 
 
 
 
 言われてみれば確かにそうだ。
 彼女が犯人だとして、こんなことを言うだろうか。
 普通は言わない。
 言えない。
 
 一気に彼女が犯人である可能性を打ち消そうとしている自分がいる。
 木崎の件があったから?
 いや、多分、…違う。
 
 
 
 
 
 「どうしちゃったんだろう、日比野さん。
 珍しいよね」
 
 
 
 
 
 とっさに切り返してみた。
 
 
 
 
 
 「誘拐されてたりして」
 
 「え?」
 
 「らしくないのよね。
 休むこともだけど、連絡もなく、って辺りが」
 
 
 
 
 
 ライバル視しているだけのことはある。
 夕華のことをわかっている。
 
 
 
 
 
 「ちょっと心配だから後でお見舞いに行ってみようかと思って」
 
 「あ、それなら私も行こうかなぁ。
 いないとそれはそれで寂しいものみたい」
 
 「香田さん、日比野さんの家知ってる?」
 
 「ええ、結城さん、知らずに行こうとしてたの?」
 
 「後で木崎先生に聞こうと思ってた。
 …ねえ。
 さっき誘拐って言ってたけど、どうして?」
 
 「なんとなく、かな」
 
 
 
 
 
 香田はサラっと言ってのけた。
 私が感じていた印象、実はだいぶ違っていたようだ。
 話してみてそう感じた。
 
 香田七海とまともに話すのは初めてだ。
 もしかすると、私の思う印象と実際が違う人って意外といるんだろうか。
 
 まずは香田と話す機会を、このタイミングで持つことができたことに感謝すべきだろう。