心想夕戯 ~the fob watch ferrying memories
夕闇に友想ふ ~friends
1-12. 蓼食う虫も好きずき ~love is blind
昼休みが終わる。
私は少し焦り始めていた。
今日の授業は五限まで。
話を聞ける時間、考える時間は残り少ない。
放課後聞きに行こうと思っていた夕華の自宅の住所を聞いてしまおうと思った。
職員室。
五限開始直前。
部屋にいる教師は少なかった。
しかし木崎はそこにいた。
田嶋が一緒だ。
私はまだ部屋には入っておらず、ドアの辺りから様子を見ていただけ。
木崎が立ち上がり、田嶋と歩き出した。
当然こっそり後をつけることにする。
五限開始のチャイムが鳴った。
どうやらキレイな話ではなさそうだ。
二人は周囲を気にしながら、外に向かう。
裏口で事務員のサンダルをつっかけた。
私は上履きのまま。
音が目立ちそうだったからだ。
体育用具の倉庫の陰。
こんなところに来ることは、まずない。
疚しい話をするには、絶好の死角だ。
ただ、あまり近付くことはできない。
「おい、麻実」
…え?
一瞬が長く感じる。
初めの一言以降、聞こえてくる声が小さくなった。
マミ。
木崎麻実…。
そう。
田嶋の今の彼女。
担任の木崎だったのだ。
なるほど。
田嶋は木崎がいながら、噂によると夕華にもちょっかいを出している。
木崎が犯人の可能性は?
十分ある。
体格の疑問も氷解する。
ジャージも持っていて不思議はない。
犯人像とも合う。
そして、ロープや布も木崎なら車で運べる。
私は足音を立てないように、その場を離れた。
校舎裏口でなるべく素早く、上履きの汚れを拭き取る。
そして教室に戻った。
五限は音楽。
教室移動がある。
私のクラスには誰もいない。
一瞬迷った。
木崎が犯人である可能性が急浮上した。
意外な答えを見た焦りからか、このまま五限はサボって、夕華救出に向かいたい気持ちに駆られる。
しかし私は音楽の授業に遅れて向かうことにした。
私はまだ夕華の家を知らないからだ。
アレを聞いた以上、木崎に見舞いの話をするのは得策じゃない。
腹痛を遅れた理由にして、音楽の授業に紛れ込んだ。