心想夕戯 ~the fob watch ferrying memories
夕闇に友想ふ ~friends
1-11. 菖蒲か杜若か ~like Athene and Hera
「日比野は休みか?」
担任の木崎が言った。
今日はこのまま一限が木崎の英語だ。
ん…
まただ。
何か。
見落としている…?
想飛針…。
アナタが…、、、?
つかめそうでつかめない雲のような何か。
声が聞こえた気がした。
確証は何もないのに、それが想飛針の声だと確信した。
気付いた時には不思議な時計からの声は止んでいた。
未来の記憶で見た光景。
聞いたセリフ。
夕華はやはり、既に襲われている。
認めざるを得ない。
夕華がいないことが証拠であり、木崎のセリフが確証だ。
仮に犯人が特定できなくても、少なくとも夕華は助ける。
屋上から突き落とされるのはだいぶ遅い時間のはずだ。
放課後になってから、思い当たる小学校を回っても間に合うだろう。
授業が始まった。
一度見た通りに。
夕華救出は、万全を期す必要がある。
授業の後で、木崎に夕華の住所を聞いておくことを思い付いた。
それで、小学校は特定できそうだ。
見舞いに行く、とでも言えばいいだろう。
学校にいる間は、犯人を捜す。
とにかく放課後まで探偵を気取ろう。
ふと気付いた。
私が嗅ぎ回っていることに犯人が気付いた場合、どうなる?
未来の記憶よりも早めに行動を起こすことも有り得るんじゃないだろうか。
犯人の可能性がある人間たちの前で迂闊な動きを見せることにはリスクが伴う。
田嶋、桧山、香田の三人の中に犯人がいるかどうかすら、見えていないのだから。
授業の合間と昼休みを使って、とりあえず聞き込みは続けてみた。
例の候補三人には直接コンタクトを取るのを控えた。
そのうえで聞いた話をまとめてみる。
まず、田嶋翔。
できれば田嶋の今の彼女に話を聞きたかったが、誰だかわからなかった。
聞いた感じ、知らないのではなく、焦らして言わないような雰囲気。
柚木園葉の言い方はこうだった。
「んー、クラスの子といえばそうとも言えるのかなぁ」
なんだそりゃ。
桧山についても少しわかった。
桧山は中学時代から夕華に想いを寄せていた。
高校一年の時に、誕生日プレゼントを贈ったのがばれて、誰もが知る状態になったようだ。
ただ、彼が贈ったブレスレットを、夕華は愛用しているらしい。
香田は少し複雑だ。
女帝なだけに、誰も本心を知らない。
後で直接探りを入れてみようかとも思う。
彼女が、夕華を良く思っていないのは満場一致。
が、犯人像が合わない。
刹那的な一面がありそうな辺りしか。
頭がいいとも、こんな手間をかけるとも思えないのだ。