Grim Saga Project

心想夕戯 ~the fob watch ferrying memories
 夕闇に友想ふ ~friends

 1-10. 嵐の前の静けさ ~the quiet before the storm

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「あっれ、結城さん!?
 どうしちゃったの」
 
 
 
 
 
 こんな時間でも人がいる、ということに私は驚いた。
 男子が一人、女子が一人。
 それぞれの席で本を読んだり、音楽を聞いたりしていたようだ。
 
 女子の方は柚木園葉。
 比較的話しやすい女子だと私は最近思っていた。
 私と同じイニシャル。
 
 
 
 
 
 「ちょっと早くに目が覚めたから。
 柚木さん、いつもこんなに早いの?」
 
 「部活の朝練のはずだったんだけどね。
 だーれも来なくって。
 たまにあるんだ」
 
 
 
 
 
 ふふっと笑う柚木。
 なんとなく夕華を思い出した。
 彼女が続けて話し始める。
 
 
 
 
 
 「でも大体早いのは夕華かな」
 
 
 
 
 
 ドキッとした。
 が、当然顔には出さない。
 
 この時間にいる時点で犯人とは考えづらいし、あまりにもイメージが違う。
 私は柚木園葉ともう一人の男子に、頭の中でバツ印をつけた。
 犯人候補から除外。
 
 柚木は私の一つ前の席だ。
 席についてからも、入ってくるクラスメートに意識を向けつつ、彼女と話してみることにした。
 少し前では考えられないことだ。
 
 
 
 
 
 「結城さん、最近少し変わったね」
 
 「え?」
 
 「なんか柔らかくなった、っていうか。
 前はもっと近寄りがたい感じで…
 あ、ゴメン」
 
 「ううん、全然」
 
 
 
 
 
 周囲を気にしつつ、私は彼女に、夕華の話を振ってみることにした。
 
 
 
 
 
 「最近日比野さん、元気ない気がするんだけど、柚木さん何か心当たりない?」
 
 
 
 
 
 柚木園葉は一瞬きょとんとした。
 
 
 
 
 
 「なんか、びっくり。
 ホントに変わったね、結城さん」
 
 
 
 
 
 私が夕華を心配しているのが意外だったようだ。
 
 
 
 
 
 「うーん。
 心当たりかぁ。
 なんか田嶋がまた夕華にちょっかい出してる気はするかな。
 別に彼女いるのにね」
 
 「ふーん、田嶋ねぇ…」
 
 
 
 
 
 少し話してるうちに、人が増えてきた。
 特に変わった様子の生徒はいない。
 
 柚木園葉の話もこれ以上は有力と思われる内容はなかった。
 
 
 
 未来の記憶のとおり、夕華以外の全員が揃い、やがて教室に担任が入ってきた。