心想夕戯 ~the fob watch ferrying memories
夕闇に友想ふ ~friends
1-8. 成せば茄子 ~efforts will always aubergine
夕華が殺される。
いつだ。
そう、きっと近い未来だ。
仮に昨日のお昼の話が、夕華が相談しようとしていた時なのだとして。
私は今日夕華にそれを確認することができる。
いや、待て。
できないケースがある。
昨夜、夕華が階段から突き落とされていた場合だ。
夕華は一週間続けて尾けられて、私に相談しようとした。
既に襲われているという最悪の仮説は、正しい可能性が高いのではないか。
仮にそうではない場合、時間はまだあるし、夕華とも話せる。
今はこの仮説を前提として、対策を練るべきだ。
私はそう判断した。
私は夕華の家を知らない。
もちろん彼女の母校も知らない。
場所を断定できない。
心当たりを回っても、夕華が拘束されてしまうのを止められないだろう。
であれば、心苦しいが朝の襲撃は見逃すしかない。
そのかわり必ず命を救う。
確か犯行の朝、夕華は早めに家を出た。
犯人はクラスの人間だ、と夕華は感じていた。
結局顔は見えなかった。
気が狂ったようにくぐもって発せられた声は、私には誰のものともわからない。
未来の記憶では犯行当日、仮説では今日。
遅刻してきたクラスメートはいなかったはずだ。
最初の授業で教師が、夕華が珍しくいないことを指摘した時、他のクラスメートは全員いた。
クラスの誰かが犯人であることも前提としてしまおう。
夕華の記憶は確かにそう感じていた。
そうすると拘束作業は、手際良く行われたことになる。
ロープや夕華を覆った布は現地調達でなければ、前夜に準備したということか。
突き落としによる殺害失敗直後に、この冷静さ。
それにしては衝動的な突き落とし。
刹那的で、ある程度の知性を兼ね備えている。
…ヘドが出る。
これから思い当たる小学校を回ったとする。
放課後までには夕華を発見、救出できるだろう。
しかしそれは犯人を取り逃がすことに繋がりはしないだろうか。
警察に事情を話すにも説得に時間がかかっては元も子もない。
本末転倒。
いや、それ以前に不確定要素も多いし、おばあちゃんと想飛針に絡む話なんてそれこそ説明不可能だ。
未来の記憶なんて誰も信じない。
警察に頼るなんてバカバカしい。
夕華を助ける。
犯人も捕まえる。
許さない。