心想夕戯 ~the fob watch ferrying memories
夕闇に友想ふ ~friends
1-7. ローマは一日にして成らず ~Rome wasn't built in a day
はぁ、はぁ…
うっ、うっ、という自分の鳴咽で目が覚めた。
私、泣いてる。
息が苦しい。
ベッドから抜け出ることもできず、私は枕に顔を埋めた。
「想、入るよ」
ノックの音と同時に声がした。
おはあちゃん…。
待って、と言おうとしたが、うまく声がでない。
声の出し方を忘れてしまったように。
祖母が静かに入ってきた。
まっすぐ私に歩みよる。
私はまだ顔を上げることができないでいた。
夕華…
「想飛針は?」
祖母に言われて、例の懐中時計のことを思い出した。
枕に顔を押し付けたまま、その下から時計を取り出し、祖母に渡す。
なにかのおまじないで、枕の下に置く、というのがあったなぁ、と思い付いてそうしたのだ。
祖母は時計を開けた。
「大切な人を助けてきなさい」
蓋を閉めた時計を差し出して、祖母が言った。
私は思わず顔を上げる。
「夢で記憶を見せられたんだよ。
向こうで何日分の記憶を見てきたか知らないけど、時計を渡したのは昨夜だよ」
え?
時計を渡されたのが昨夜?
だって、夕華が…
しかし。
もしあの鮮明な世界が夢、いや、記憶だとしたら。
記憶だとしたら…?
あれは夕華の記憶?
それと…、、、私の記憶!?
ん?
これから起こる出来事の記憶?
わからない。
でも今はそんなことはどうでもいい。
それでもやはり祖母の言葉を疑っていない自分。
夕華はまだ…
生きてる!
助けられる!!
「おばあちゃん、ありがとう!」
祖母に微笑み返し、自室を飛び出る。
かなり泣いたようだ。
洗面所で見た自分の顔。
目が腫れている。
何年ぶりにこんな顔したかな。
とにかく身支度をさっさと済ませる。
時刻はまだ午前六時前。
気にせず家を出る。
私は学校への道を、意識してゆっくりと歩き出した。
まず、事件が起きるのはいつのことなのだろう。
夕華は私のことをたくさん考えてくれていた。
尾行の件を相談しようとしていたようだ。
思い当たるとすれば昨日。
お昼、私は夕華の言葉を遮った。
もし、アレがそうだったら?
夕華が襲われる日がすぐそこに迫っているのでは。
つい、早足になりそうだ。
はやる気持ちを落ち着かせる。
今大事なのは、ちゃんと考えること。
私は更にゆったりと歩き出した。