Grim Saga Project

心想夕戯 ~the fob watch ferrying memories
 夕闇に友想ふ ~friends

 1-6. 青天の霹靂 ~The day where she is not

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「日比野は休みか?」
 
 
 
 
 
 誰も答えない。
 そして教師は授業を始めた。
 
 
 
 
 
 いつもと変わらない。
 ただ、夕華がいないのは確かに珍しかった。
 
 いないと思うと話したくなったりして。
 不思議なものだ。
 
 私は屋上で一人、昼食を済ませた。
 
 いつもと変わらない。
 
 なんだか妙に夕華と話したくなった。
 明日は学校来るかな。
 
 そんな風に考えた自分に戸惑う。
 
 彼女を特殊だと感じていたのは、私と似ているからだ。
 そう気付いた。
 
 夕華と話したい。
 そうだ。
 私はもっと仲良くなりたいと思っている。
 もっと知りたい。
 わかり合えるかもしれない。
 
 私が孤独なのは、私が心を閉ざしているから。
 心を開いてもいいと思える相手がいなかったから。
 
 もっと歩みよってもいいんじゃないか。
 怖がりな自分。
 そしてきっと彼女も。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 翌日、私の中で、夕華と話したい気持ちが更に膨らんでいた。
 今日のお昼は一緒に食べよう。
 
 学校に着くと、何か雰囲気がおかしい。
 全員校舎の外に出ている。
 朝礼台に教頭がいて、しきりに静かにするよう声を掛けていた。
 
 各担任がクラスの生徒を整列させている。
 私もバッグを持ったまま、クラスの列の最後尾についた。
 同じようにバッグを持ったままの生徒も多い。
 
 遅刻することも多いが、今日は間に合った。
 遅れてきた生徒たちが、各クラスの列にぞろぞろと連なって、徐々に伸びる。
 騒がしさは少しずつおさまってきた。
 
 予鈴が鳴った。
 
 夕華の姿を探したが見当たらない。
 今日も休みかな…。
 体調でも崩したのだろうか。
 形にならない不安が私を襲う。
 なぜだかわからずにそわそわし始める自分。
 
 やがて本鈴が鳴った。
 
 いつの間にか、朝礼台には校長が立っている。
 
 
 
 
 
 「えー、今日はみなさんに残念なお知らせをしなければいけません」
 
 
 
 
 
 歯切れ悪く口火を切る校長。
 苛々した。
 
 
 
 
 
 「昨夜、三年生の日比野夕華さんが他界しました」
 
 
 
 
 
 周囲が一気にざわついた。
 朝礼台の脇から別のマイクで教頭が、静粛に、と叫び始める。
 
 私は頭が真っ白になった。
 
 
 
 
 
 うそ…
 
 
 
 うそだ…
 
 
 
 
 夕華が、そんな…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 校長が、自殺の可能性が高いことを告げた言葉が、かろうじて耳に入った。
 
 
 
 予感していた。
 
 
 
 無意識のうちに。
 
 
 
 
 
 そして怯えていた。
 
 
 
 
 
 「うそよっ!!」
 
 
 
 
 
 信じられない。
 
 
 
 夕華…
 
 
 
 夕華…
 
 
 
 
 
 どうして?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 知らないうちに涙が溢れる。
 私は崩れ落ちた。