Grim Saga Project

心想夕戯 ~the fob watch ferrying memories
 夕闇に友想ふ ~friends

 1-3. 名前の理由 ~Grim's vessel

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「思ったとおりだったよ」
 
「おばあちゃん…」
 
「記憶の世界は楽しかったかい?」
 
「記憶の…世界…」
 
 
 
 
 
 何がなんだかさっぱりわからない。
 わからないながらも、まずは落ち着いてきた。
 ゆっくり考えよう。
 そう。
 それがまず第一。
 
 すぅっ、と大きく息を吸う。
 そしてゆっくりと吐き出した。
 
 
 
 
 
「説明して、おばあちゃん」
 
「お前の名前は私がつけたんだよ」
 
「…?」
 
「想。
 いい名だね」
 
「それと“記憶の世界”と関係あるの?」
 
「想飛針」
 
「なにそれ?」
 
「その懐中時計の名だよ」
 
「ソウヒシン…」
 
「お前の名の由来でもある」
 
 
 
 
 
 握っていた時計をまじまじと眺めてみる。
 
 
 
 
 
「その時計は普通の時を刻んでない」
 
「どういう意味?」
 
「開けて見てごらん。
 動いてないだろ」
 
 
 
 
 
 懐中時計というモノ自体、初めて触れた。
 でもずっと昔から、この時計を知っていた気がする。
 私は時計を開けてみた。
 確かに動いていない。
 
 
 
 
 
「記憶を出し入れする時だけ動くんだよ」
 
「記憶の出し入れ…」
 
「“想飛針”とは私たちの言葉でわかりやすくした呼び名。
 記憶を運ぶ時計という意味で本当は…」
 
「待って。
 待って待って、おばあちゃん」
 
「ん?」
 
「ん?じゃなくて!
 理解できないよ。
 もっとわかるように話して」
 
「おや?そうかい?」
 
 
 
 
 
 ふぅ、と軽くため息。
 あまりにも現実離れした話を、当たり前のようにたくさんされても追い付かない。
 
 ただ、不思議と祖母の話を疑ってはいない。
 単に自分の頭が、今の話を受け入れる準備を整えきれてない。
 そう感じている自分に気付いた。
 
 
 
 記憶の出し入れ。
 そう。
 まずそこだ。
 
 
 
 
 
「とにかく」
 
 
 
 
 
 祖母が先に口を開いた。
 
 
 
 
 
「それはお前にとって必要なものだよ。
 肌身離さず持ってなさい」
 
 
 
 
 
 肌身離さず…って。
 結構大変だよなぁ。
 寝るときとかお風呂のときとかどうすればいいんだろう。
 
 私は、安穏とそんなことを考えていた。
 
 
 
 
 
 その夜、想飛針は静かに動き出した。