心想夕戯 ~the fob watch ferrying memories
夕闇に友想ふ ~friends
1-2. 白羽の針は立った ~chose Saw specifically
夕華は少し特殊だ。
あれから学校でも特に変わりはない。
しかし何も変わらないかというと、そうでもない。
私は今まで自分が一番孤独だと思っていた。
いや、自分だけが孤独、か。
しかし、少なくとも学校という場においてはそうではなかった。
夕華は明るく、誰とでも話している。
しかし心を開いてはいない。
最近それがわかった。
もしかすると、希薄な関係やくだらないやり取りを好まない人間は意外とたくさんいるんじゃないかと思えてきた。
夕華が、あの夜私と話した時より楽しそうに話しているのを見たことがない。
「ねぇ、想。
聞いてもいい?」
私と夕華はお互いの気が向いた日に、屋上で一緒にお昼を食べるようになっていた。
「内容によるかな」
「あはは、想らしいなぁ」
夕華がほんの一瞬、視線を落とした。
そして私の眼をしっかりと見据える。
夕華のこういうところ、嫌いじゃない。
「あの夜って何してたの?」
「ああ、実は何もしてなかった」
今度は夕華の大きな瞳がきょとんとして、瞬きを繰り返す。
実際何も予定はなかった。
あの夜会った変わった男のことを話そうかどうか、悟られない程度の刹那、頭をよぎった。
「アタシは、、」
「いや、いいよ」
え?って顔で私を見る。
「話したいから話すんならいいけどね。
私のこと聞いたから、でしょ?」
夕華は何も答えずにほほえんだ。
「想、ちょっとおいで」
家族で一番信頼しているのが、このおばあちゃん。
母方の血筋なので、苗字は“結城”ではない。
私の部屋のドアの向こう側から、張りのある声が響く。
すぐに部屋を出た。
祖母の和室。
子どもの頃はよく通ったものだが、久しぶりに入る気がした。
「失礼します」
一声かけてふすまを開けた。
背が大きくない私より一回り小さな祖母が、座布団にちょこんと正座している。
向かいに用意された座布団に正座した。
「これをお前に継いで欲しい」
はっきりした口調でそう言った祖母は、しわしわの両手を差し出していた。
「これ、時計?」
祖母の手から垂れ下がった鎖を左手ですくい、右手で小さくて丸いモノをつかむ。
「え!!?」
なに!?
よくわからない。
不思議な感じ。
地に足が着かない。
上空に放り出された。
何かが、誰かが、私に入ってくる。
助けて。
いや!
乗っ取られる!?
心と身体が分離する!!
呼吸が荒くなる。
誰?
はぁ…はぁ…
やめて!!
怖い…
いや、鋭い…?
うぅ…
実感の沸かない世界。
強く眼をつむる。
強く強く歯を食いしばる。
はっ、はっ…
く、誰にも…、私は……、譲れない!
「やっぱりお前は継げたね」
お、おばあちゃん…?
戻ってきた。
私、もう大丈夫だ。
それだけはわかった。