Grim Saga Project

遥一閃 03 異

 
 
 
「ロミ、君たちのその不思議な力は一体なんなんだ。」
 
「ここ、レイムガントはね、異端の村なのさ。はぐれたエルハイミアンの隠れ里。」
 
「えー、なんで?みんなそんなすごい能力を色々使えるのに。」
 
「だからだよ、ミア。私たちの中にはこの村で生まれた者もいるけれど、普通の人々との暮らしがうまくいかなくて、ここに辿り着いた者もいる。」
 
「うん。そうだな。人はそんなに心が広くない。普通の人と違う能力を持ってるなんて知ってしまったら、羨むし妬む。下手したら利用するか奪おうとする。」
 
「そう。私たちに争うつもりはなくても、私たちの周囲に争いが起きる。」
 
「なんかだっさいね、人って。」
 
「だっさいよ。まあ自分がそんな人間にならないようにするぐらいしかできることはないけどね。」
 
「ところでロミはどんな能力を持ってるの?聞いてもいい?」
 
「うーん、どうしようかな。私のはみんなともまた少し違うみたいでね。もしかしたら、これを話してしまったらレヴィンにもミアにも迷惑をかけてしまうかもしれない。」
 
「あー、そんなことなら気にしなくてもいい。オレたちはハンターだからさ。自分の身ぐらい守れるし、無用に他言もしない。でも話したくないなら話さなくていいよ。昨日今日来たばっかりのオレたちを信用しろって方が無茶だ。こうしてみんなに良くしてもらってるだけで十分ありがたい。」
 
「えええええ。私は聞きたいのにー!」
 
「まあそうごねるな、って。ミア。」
 
「はは。レヴィンとミアなら大丈夫そうだし、私は構わないんだ。ただ迷惑を掛けたくなかった。」
 
「えへへ、じゃあ聞かせてよロミー!」
 
「ああ。くれぐれも気をつけてね。私は生み出すものに命が宿すことができる。」
 
「へ?命を宿す…、ってどういうこと?」
 
「そのままさ。やってみる?」
 
「いやいや、ロミさ、それ命すり減らすだろ。」
 
「どうしてわかる?」
 
「聞いたことがあるからだ。」
 
「なるほど。じゃあグリムの器のことも知ってたのか、博識だね、レヴィン。」
 
「なあにそれ?」
 
「ミアにも話したことがなかったっけ。命ある武具の話。」
 
「え?ああ。うん。思い出した。でもそれって御伽噺じゃないの?」
 
「じゃないからロミがいるんだろうな。」
 
「疑わないのかい?」
 
「疑う理由がないからね。それが嘘だとしてそれを言うメリットがない。ましてや一介の旅人になんて。」
 
「え、でもレヴィン、生きてる間に一度は手にしてみたいものだ、みたいなこと言ってたよね。作ってもらったら?」
 
「いや、まさかグリムの一族と遭遇できる日が来るとは夢にも思わなかった。だけど、こうして目の前にいるロミがそうだっていうのなら、命をすり減らして作ってくれとは言いたくないよ。」
 
「んー、まあレヴィンっぽいし、レヴィンがそう言うならそれでいいよ。だって、ロミ。」
 
「変わってるね、君たちは。だから話す気になったのかな。ところでさ、どうしてグリムの器を手にしてみたいと思ったの?」
 
「ああ、仕事柄戦闘もしなければならないから、もちろん訓練は積んできたし、実戦もたくさんしてきた。そんで色んな武器を振るって来たけど、どれも違和感しかないんだよな。今はこの剣を使ってて、そこらのよりはマシなんだけど。」
 
「ちょっと見せて。…うわー、懐かしいな、これ。シュクレティアか。」
 
「え?ロミ、知ってんの?」
 
「シュクレティアも広義にはグリムの器と呼べるかもね。私の何代も前のグリムが打った訓練用の剣だよ。量産型を試そうと思って失敗した結果、これもこの世に一振りしかない。失敗作だけど。」
 
「これで失敗作かよ!今までで一番使ってて気分が悪くならない武器だぜ、オレにとっては。」
 
「ほかのだと気分が悪くなるの?」
 
「そうなんだよー。レヴィン、すぐこの剣振ると吐きそうになる、とか言うんだよね。意味わかんなくない?」
 
「レヴィン、どういうことかもう少し詳しく教えてくれない?」
 
「いや、詳しくも何もミアが言った通り。ほとんどの武器は使ってると変な気分になってさ、気持ち悪くなるんだ。んー、なんていうかな、もやもやした何かドス黒いものが頭の中に入ってくるような感覚?」
 
「まさか。武具との共感覚か。いるんだね、実際。」
 
「共感覚…?」
 
「シナスタジアとも言うけど、一般概念のそれとは別物。おそらくレヴィンのその感覚は武具の記憶を受け取ってしまっているんだ。だから武器を振るうと、過去に振るわれた時のことを武器が思い出していて、レヴィンはその記憶を垣間見てしまっている。」
 
「ほえー。そんなことがあるのか。じゃあこのシュクレティアはどうして大丈夫なんだ?」
 
「グリムが打ったものだからさ。失敗作とはいえ、どこの誰が作ったのかわかんないものよりは命ある武具に近い。明確に意思の疎通ができるレベルには至らないけど。シュクレティアはレヴィンに振るってもらっている時に嬉しいんだね。この子には感情がある。」
 
「あー、それなんとなくわかるな。」
 
「私全然わかんない…!」
 
「つまり、グリムの器なら気持ち悪くならずに振るえる武具なのかどうか試したいってこと?」
 
「ああ、そうだよ。憧れみたいな感じかな。なんつうか、こう、武器と一体となって戦うみたいな、心が通じているみたいな。そんな武具と出会えたら、オレはもっと強くなれるのかにも興味がある。」
 
「なるほどね。なれるよ。間違いなく。レヴィン、何か君の愛情が注がれた石とか思い入れのある宝石とかさ、そういう大事なものを一つもらえないかな。形を変えて返すよ。」
 
「どういう意味?」
 
「打ってみたいんだ。君のための武器を。」
 
「いいのか?」
 
「もちろんだよ。これは私の意思。打つのに君の心が宿ったものが欲しいんだ。君のための武器を作るのに使いたい。」
 
「ありがとう、ロミ。そしたらさ、ミア、君にもらったあの宝石、使わせてもらっていいかな?」
 
「うん、いいよ。ブルーアイ。こんな風に役に立つなら私も嬉しいし。」
 
「…うわ。これはすごいな。二人の気持ちが宿っている。いいものができるよ。」