V01. 宝剣
言わずと知れた私。
根室雛をマスタであり依代とするグリムの器。
私の名を彼女には伝えているのだけれど、なぜだかあの子は私を神のように敬い過ぎていて名前では呼んでくれない。
私を名で呼ぶように指示をすれば呼んではくれるのだろうけれど、それでは意味がない。
名で呼ばれるような自然な関係を築く必要がある、と私は考えているのだけれど、現状では望みが薄そうだ。
というのも日に日にあの子は私のことを神格化している。
このままでは私は本当に神化してしまう。
困っている。
人間にはわからないだろうが、あの子には私たち器を強く惹きつける何かがある。
だからあの子はこれまでにも様々な器から声を掛けられているのだけれど、それはそういうものだと認識してしまっていて、自分が特別だとは微塵も思っていない。
しかしそういう点も含めてあの子なのだから、それはもう致し方ないのだと思う。
偶然というか必然なのかもしれないけれど、私があの子を一番初めに見つけることができたのは本当に奇跡的であった。
マスタを持たない器がこの子を見つけたら、まず間違いなくマスタにしたがるはずだ。
彼女が私たち器を惹きつける理由の一つは、天性の器との相性の良さだと考える。
私に限らず、彼女の特殊性は器の能力を100%を超えて引き出せる。
つまり、私たちが思う存分、もしくは自覚している以上の力を発揮できるマスタなのだ。
これは選ばれる側の人間にはわからないであろうけれど、器側からすると人間性の好き嫌いや性格の相性以外に、この能力を引き出す相性はマスタ選択時の大きな要素となる。
予測だけれど、彼女の天賦の才でもあり、生い立ちや性格など複数の要因が偶然重なってできているから、他にはなかなかいないと思われる。
だからこそ私はこの子をちゃんと育てなければいけない。
一言で言えば透明なこの子が、穢れて霞んでしまわぬように、そしておかしな色に染められてしまわぬように。
だから私は記憶の読み取りの能力を使って占い師として、まずは一人でも生きていけるだけの稼ぎをあげることにした。
この世界で生きるのに必要なお金がどの程度なのか、とか最低限の衣食住がどのようなものかを調べて、その水準を超えるだけの生活をさせなければいけなかった。
ようやく生活のリズムができてきた時に、次のステップに進むためのきっかけを見つけた。
結果的にあの子の透明性を破壊することなく、成長させてくれる仲間と出会うことができた。
紆余曲折あるが、ここまでは順調だ。
とはいえ、懸念も多い。
ユメカゴはあの子の伸び代を大きく使って成長させてくれる可能性がある一方で、危険に身を投じるリスクを格段に引き上げる。
私はあの子を守らなければいけない。
いついかなる時でも、憑依することでリスクを回避していてはいけない。
これから、あの子にはたくさんの試練が降り注ぐ。
だから今は平穏なひと時を満喫しようと思う。
そういえば最近あの子はカナメと一緒に暮らし始めた。
カナメは物書きをしているので、生活の中での干渉は最低限であることもあり、相変わらず夜になるとあの子は私と語る時間を欠かさず取る。
ここのところ、あの子は毎日あったことや、思ったことを楽しそうに語るようになった。
「神さまぁ、あのね今日はね…。」