The Pears 09 - Attention to Glamorous Pear ~ 妖艶な洋梨にご用心
ところで、さっきラム…が使ったと思われるアレはどんな能力なんですか?
自然に言おうとした。
言おうとしたが、ラムさんと言いかけてどもってしまった。
ダッサい。
「あれはね、テンプテーション。超魅了術。」
調味料術、と一度変換した俺の頭脳は悪くないと思いたい。
誘惑、という和訳が頭をかすめた。
この美しい顔で先ほどの距離まで近づけば、それだけで女性への耐性がない男性はおかしくなるんじゃないかとも思う。
だが、そんな理屈以上に、あの不憫な男のイかれた挙動は確かに常軌を逸していた。
俺もテンプテーションに罹るとあんな風になるんだろうか。
「あなたには通用しないな。」
あれ?
今俺声に出さなかったよな。
なんかここのところ、こう心を見透かされてるような気持ちになることが多い。
他人の心を覗き見るなどという能力を使えるようになってしまった弊害でもあるのだろうか、と思うぐらいに。
「洗脳術の一種だと私は理解しているのだけれど、やっぱり効果には対象ごとに差があるんですよね。しかもあなたは能力者だしね。うーん、いや、そうじゃないな、そうじゃなくても多分あなたにはあまり効かない。」
なぜですか?
という問いには、よくわからないけどなんとなく、という曖昧な答えが返ってきた。
「あと、これ、男女関係なく効果が出るみたいで。そんなに使い所のある力ではないから経験則も多くはないけれど。」
ふと思い出して、あまり考えずに口にした。
あなたの器は髪飾りですか?
「うわあ。それ言われたの初めて。びっくりしました。」
さっき、右手がその髪飾りに当てられていた時、うっすら光っていたように見えたので。
実はこの指輪も光ったことがあって。
正確にはそれを体験したのは俺ではないのだけれど、そこはあえて補足しない。
うんうん、とラムが頷く。
ちょっと色々細かく説明しないと齟齬があるかもしれないけれど、ざっくりはそういう理解でいいと思います、だそうだ。
さて、それで。
まだ色々聞きたいことがありますよ。
「なんでしょう?」
先ほどの恥ずかしさから立ち直ったらしい少女の声を、久しぶりに聞いた気がした。