Grim Saga Project

The Pears 06 - The Psychic Forces ~ 謎の力

 
 
 
えーっと、俺があなたたちにどう力を貸せるのかよくわからないのですが…。

ここでもやはり俺は素直に答えることにした。
どうも通常のモードでこの二人を相手にすると、完敗を喫する予感がある。
そんな時は潔くシンプルモードに転換した方が良いと判断したに過ぎない。

しかし、その返事を待たずして不穏が訪れる。
俺らしからぬことに、目の前の二人に引き込まれていたのだろう。
察知するのが遅れた。
いや、しかしこのケースだと早く気付いていても対処方法の検討に時間が掛かる。
結果は変わらなかっただろう。

女性二人のすぐ後ろに男性が二人立っていた。
初めから店にいた四人組であることはすぐにわかった。
その内の二人だ。



「ねえねえお姉さんとお嬢さん、今何の話?僕たちも混ぜてもらえない?」



悪いけど大事な話の最中でね。
お引き取りいただけませんか?

紳士的にお断りした。
当然そう簡単には行かない。



「そんなこと言わないでよー。話してみなきゃわかんないじゃない。」



一人がラムの肩に手を掛ける。
なめられたものだ。
俺は立ち上がった。
大して腕っぷしに自信があるわけではないが、男として当然の反応ぐらいはできる。
カウンターからマスターが出て来た。



「ちょうどいいわ」



え?
ラムがそう呟いたように聞こえた。
手を掛けられた肩もそのままに、すっと音もなく立ち上がり振り向く。
すっと左手を軽く上げて、揉め事を止めに来たマスターを制する。
右手が右耳の辺りに垂れた髪をかきあげ耳に掛ける。
そのまま髪を一つに結って留めている辺りに当てられる。
不思議なポージングだ。
流れるような、とでも形容すれば良いか、迷いなく一つ一つの動作が行われている。

なぜか俺にはこの時ラムの右手と後頭部の辺りがぼんやり光っているように見えた。
左手は既に降ろされて自然。
そのまま彼女の美しい顔が、手を掛けていた男性の顔にぐっと近づいた。
その距離、約15cm。
キスでもするのかと思うほど近い。

しかし、こちら側からわずかに覗き見えた彼女の顔は真剣だった。
隣の少女はその間まったくこの非日常的な出来事に興味・関心を寄せていない。
俺はラムから目が離せずにいるが、かろうじて少女の様子も伺うことができた程度。



「去れ」



美しい唇から発せられたのは、そんな短い命令であったように聞こえた。
耳を疑う。

しかし、彼女の肩に掛けていたままだった男の手が見るからにぶるぶると震え出し、ニヤついていた男の表情は愕然となる。
そのまま何の支えもなく男の身体が棒立ちのまま後ろに傾いて、ゆっくりと倒れた。

ドーン!という激しい衝撃と同時に、机が一つ、椅子が二つ、男に巻き込まれて倒れた。
もう一人の男が慌てふためきながら、倒れた男に声を掛けながら抱え起こす。
残りの二人が駆け寄ってきた。

しかし、倒れた男が呆然と、そして意味不明な恍惚とした表情で起き上がった。



「ま、マスタァ、お、おヲ、おがいげぃィッ!」



混乱し、裏返った声でマスターに会計を依頼した。
何だ今のは。

理解できずにいる間に男性四人組はあたふたと会計を済ませ店を出て行く。
ラムは華麗な仕草で元の席に座り直していた。