The Pears 04 - The Girl ~ 少女
あなたが噂の籠のお嬢様?
不躾かとも思ったが、世間話から入るタイプの相手ではない気がしたことは否めない。
「いいえ。私は違います。隣のこの子がその噂の籠のお嬢様。ほら、挨拶は?」
「あ、あの、こんにちは。はじめまして。」
これにはさすがに面食らった。
表情や仕草から感情を悟られないことが一つの特徴だと自認している俺の目は見開いていたに違いない。
このちょっとした硬直時間に美人はマスターを呼びつける。
私は彼と同じもの、あとオレンジジュース、うーん、あと何かオススメのおつまみを下さい、お任せするわ。
という声がキレイに響いて耳に届いたものの、脳がフル回転状態のままだ。
かろうじて、はじめまして、と答えられたと思う。
美しい声で注文まで済ませた美人と、対照的に高くてか細い消え入るような声で挨拶をした子どものようなお嬢様。
それは失礼しました。
ではあなたは?と美人に問うた。
「私はこの子の姉代わり兼大事な友人、モデルのラムって言います。本名じゃないけどね。よろしくお願いします。」
これもかろうじてよろしくお願いしますと返したはずだ。
ファーストインパクトの鮮烈さそのままに挨拶タイムを済ませたが、一向に状況が飲み込めない。
人身売買?この子が?まったく似つかわしくない。
俺はテーブルに乗せて組んでいた両手をほどき、腕組みをして背もたれに寄りかかった。
いや、すみません。
あまりにも予想外過ぎて、なんて言ったらいいか。
状況が理解できていないというか、整理がついていないというか。
ふうっと一息つく。
「いえ、こちらこそ。こんな変わった二人組が突然目の前に座ったら驚きますよね。」
はい。正直言ってとても驚きました。
と、素直に答える。
場違い感がすごい。
何が場違いかって、お洒落なバーにどう見ても未成年を含む女性二人。
そこに釣り合わない凡人男が一人。
何なのだろうこれは。
いやいや、気を取り直して。
やはりフードの人物は女性だった。
ふわっとした服を着ていても細身だとわかる。
運ばれてきたジュースを呑む仕草は飾らない。
先ほどの高くてか細い声で小さくいただきます、と言うのが聞こえた。
ただ、見た目は幼いのになんとなく子どもらしさを感じない不思議な感覚もある。
少し落ち着いてきた。
この二人が予想外なら、自分はどんな予想をしていたのだろう。
まず、包帯野郎がいるだろうと思った。
少し恐ろしい容姿を想像していた。
こんなオシャレな店にスプラッタのように包帯を顔に巻いた男が現れたら、斧でも振り回しそうなイメージが勝手に浮かんでくる。
そしてお嬢様はというと。
根拠なく思い出していた女性がいたのだ。
先日の情報収集パーティで出会った女性、真白。