The Pears 03 - The Door is Extraordinary's Entrance ~ 非日常の入り口
洒落た店に招かれた。
今は奇妙な男に会ってから、二日後の夜。
普段絶対に一人では入らない雰囲気の本格的なバーだった。
もう一つ、あの男と話したことがある。
元々本題と考えていた話が実は繋がっていた。
なあ、例のパーティに俺が行く前、アンタ言ったよな、Good Luck Eggplant!!って。
あれはどういう意味だったんだい?
今日はそれを聞きに来たんだ。
それを聞いた男はくくっと笑う。
「籠のお嬢様の遣いだって奴が言ってたんだ。誰だって?って聞いたら、籠様は彼のことをナスくんと呼んでいるって。はあ?って思わず聞いちまった。ナスって野菜のあの茄子かい?って。そしたら奴は頷いた。それがどうにも愉快でね。」
まったく意味がわからない。
とはいえ、結局俺は実際活動する際の偽名として"那須"という名を使うことになった。
偶然だろうか。
必然にしては偶発的要素が多すぎる気がする。
だが、なんだか腑に落ちない。
そんなことを考えながら俺はその洒落た店で酒を飲んでいた。
そんなに酒が好きな方でも強い方でもないが、まったく飲めないわけでもない。
この話がなんだかやたら気になって、待ち合わせよりもだいぶ早い時間に来てしまった。
約束の時間まであと約1時間半。
開店間もない時間帯だ。
まだ1杯目だけれど、少し気分が良くなっていた。
元々良かったのかもしれない。
手元の酒はラム系のモヒートらしいが、生憎酒には明るくないのでよくわからないがうまかった。
一人で飲み始めて30分も経っていないが、こういう店には滅多に来ないので人を見ているのが面白い。
薄暗く、さほど広くもない店内には俺以外に二組の客がいる。
どれも遠くてよくわからないが、一つは男の四人組で俺よりも少し歳が上に見える。
30代ぐらいだろうか、酒が好きで飲みに来ているようだが、騒がしくない程度に盛り上がっている。
もう一つはカップルだ。
だがあれはまだ付き合っている感じではなく、男が女を狙っているってところ。
女性の方もそれをよくわかっていて手の平の上で転がしてますってのが見て取れる。
マスターはさすがにこういう店を切り盛りしてるだけあってか、客の様子をキッチリ見ていて、グラスが空いてしばらくすると軽く声を掛ける。
さて、次はどんな客が来るかと楽しみにしていると変わり者の客が入ってきた。
女性の二人組…だろうか。
最初に入ってきたのはとにかく滅法美人。
長い髪を一つに結っている。
スタイルも抜群に良く長身で、170cmはないぐらいか。
っと、こんなことを考えていることがバレたら面倒なのでやめよう。
もう一人が特に不思議だった。
美人の後ろから静かについて入ってきた…子ども?
上から下までひと繋ぎのふわっとした白っぽい服。
フードを目深に被っている。
身長は低い。150cm台。
俯き気味だから余計に小さく見えるのか。
女性だと感じたのは直感的だったかもしれない。
そして、大きなマシュマロのような白いクッションを両手で胸に抱いている。
まるで寝起きで大きな枕を抱きかかえて目覚めましたと言わんばかり。
およそこの店に似つかわしくないけれど、あまりにも美人が堂々としているのでマスターも咎め損ねた、といったところか。
俺は左手で頬杖をついて、右手でグラスを傾けながら、緩い雰囲気でその二人を見ていた。
油断していた、といっても過言ではない。
二人が一直線にこちらに向かってきて、向かいの二席を占領する。
まだだいぶ早いが人と待ち合わせだと伝えていた俺は、店の隅の四角いテーブルのこちらに二人、向かいに二人座れる四人席に一人で掛けていた。
そんなに大人数では来ないだろう、と。
グラスを置いて頬杖解放。
顔を正面に向けて、挨拶をした。
こんにちは。
向かいに腰掛けた美人がにこっと笑う。
「はじめまして。あなたがナスさんですね。」