The Pears 02 - Gossip of Busket ~ 籠の噂
さっき言ってたカゴがどうとか、目に留めるって話はなんだい?
本題の前に気になったことから聞いてみる。
はぐらかされるかと思ったが、意外なことにちゃんとした答えが返ってきた。
「籠のお嬢様、って言ったんだ。鳥籠の籠だ。俺も素性は知らねぇが、相当な変わり者らしい。ちょっとこっちの世界で最近噂になってる。歳も姿も誰も知らねぇ。
その謎のお嬢様から俺んとこに遣いが来やがった。君がこの前俺んとこに来る数日前だ。人間だかもよくわかんねぇ厚着したなんだかもこもこした奴が来てくぐもった声で言った。」
"近いうちにここに青年が来る。身長は170cm程度の青年で、小綺麗にしていてグリムについて知りたがってる。"
はあ。
としか答えられない。
つまり、俺がこの奇妙な男のことを訪ねていくことが予見されてた、ってことだ。
身なりなんかはまあなんとでも言えるけれど、グリムについて探ってるってのは珍しいものなんだろうか。
もちろん偶然や間違いの可能性を論っているだけで、直感的には自分のことを言っていたのだろう、とは感じた。
あと鳥籠の籠なんだな。
加護って苗字かと思った。
漠然と加護さんの家のお嬢様というイメージを膨らませかけていた。
「んで、だ。そいつぁ帽子を目深に被って、ちょっと見える顔には包帯をぐるぐる巻いてある。男か女かもじじいばばあなのかもわかんねぇ。とにかくなんもわかんねぇ。俺は"それで?そいつが来たらなんだってんだ?"と尋ねた。」
"彼が来たら教えてほしい。籠様が連絡を取りたがっている"
で、連絡したのかい?俺のことなんだろ。
「だから、今日は君から話があんのかもしんねぇが、こっちも用事があったってことだ。話したがってるやつがいる。こいつぁただのお願い事で仕事って認識じゃねえ。君が話してみる気がないのに紹介してもしょうがねぇな、ってことで。どうする?」
アンダーグラウンドの世界で生きる変わった男が意外な紳士ぶりを見せる。
ただ、確かにそれで金をもらえるわけでもないのに俺を紹介してもこの男にメリットはないのだろう。
答えの前にいくつか聞かせてくれ。
その籠のお嬢様とやらはどうして噂になってんだ?
「なるほど。いい質問だ。だが噂の域を出ねぇレベルの他愛もない話がいくつもあるばかり。どれを信じるかは君次第。
まず、そのお嬢様とやらが人身売買をしてるって話がある。その対象が人ならぬ人であるとも。お嬢様自身も人間ではないという噂。妖精だとか天使だ悪魔だ、やれ宇宙人だとか。他にもあれやこれやと。」
ちょっとよくわからなかった。
なんだろう、この根も葉もない感。
実際何をしてるかまではわからないけれど、どういう動きが目に付くとそういう噂に発展するんだろう。
すべてが真実であるとは考えがたい、というのが正直なところだ。
ついでにもう一つ質問を重ねることにした。
人ならぬ人とはどういうことだろう、と聞こうかと思ったが咄嗟に質問を変えた。
なぜ、謎の人物は"お嬢様"と呼ばれているのか。
「ひゃはっ。やっぱなりと違って冴えてるな、君は。そう、実際に接触した人間が必ずどこかにいるんだろう。俺んとこに来た包帯野郎も"籠様"って表現だったのは明確に覚えてる。
更に噂を重ねることになるが、実際に接触したとされる人物が一人行方不明になってるって話も聞いた。そいつが言ってたらしい。籠様ってのはお姫様のように美しい嬢ちゃんだった、ってな。
んで、そいつが消える前に言われたそうだ。"三日後、あなたに訪れる大きな不幸を避けるためには今までにあなたが犯した罪を認めて出頭するのがベストです。"で、もちろんそいつはサツになんか捕まりたくねぇから出頭なんざしねぇ。そしたら消えた。」
今回の俺の件も含めて、未来を見る力のようなものがあるということだろうか。
しかしそうなると気になる。
なぜ俺に接触しようとしているか、が。
ここまで聞いて結論を出した。
その籠のお嬢様とやらに紹介してくれ。