Grim Saga Project

The Pears - 01 Strange Man And Normal Boy ~ 変わり者と普通の青年

 
 
 
ひょんなことから俺は那須と呼ばれる。
本名は那須ではない。
この名をつけた男に会いにいくところだ。

仲介屋、情報屋、ブローカー…。
何をしているのかさっぱりわからない人間、という印象なのだが、今のところこの男からの情報は実にアテにできる。
信憑性がある、頼りになる、意味がある、などとも言える。
情報の出所について触れる気もさらさらないが、謎の多い男だ。
背が低いのにひょろりとした印象なのは痩躯で猫背だからだろうか。
眼鏡に鷲鼻が特徴的だ。

那須というのは、実は少し嘘である。
茄子だからだ。
もう少し正確に言えば、ある情報収集の際に彼が俺に言った。

Good Luck Eggplant!!
(じゃあな、茄子!)

よくわからない人間のよくわからない挨拶だったが、妙に耳に残っていたのだ。
情報収集の場においては本名など晒さないに限る。
ある日、非日常の場で名前を聞かれた。
本名も、そこから来るあだ名も、そこで名乗るに相応しくないなと考えた刹那、降って湧いたのが Eggplant つまり茄子だったというだけの話だ。

とにかく彼に会って話を聞く。
なんとも掴み所のない男で、ひと所にいない。
まったくこう、なんだってこういう怪しい世界の奴らってのは何考えてるかよくわからなかったり、どこにいるんだかよくわかんなかったりするんだか。



「君ら表の世界の常識とは違って、ウチらクズの闇世界ではそうちんたらもしてられねぇのさ。いつどこでブスッと刺されてあの世行きになるかわかんねぇんだからな。」



おいおい。
俺はまだアンタに何も聞いちゃいない。
それどころか、こっちが探しに来てたはずなのに、なんで俺が後ろから声掛けられてるんだ。

ああ、やっと見つけた。

そう呟いて振り向きながら、更に一瞬で色々とよぎる。
こういう世界で生きてる人間からすれば、そうでない世界の人間が片足突っ込んで探しに来てるのを先に見つけることなど容易なのだろう。

半端に世界を跨いで半端な意識のままだと死ぬぜ、と言わんばかりだ。
つまりこれは、この奇妙な男なりの助言であったと受け止める。
ご忠告ありがとう、と付け加えた。



「ひゃはは、君はやっぱり頭がいいね。籠のお嬢様が目に留めるだけのことはある。」



ん?カゴ?
誰が俺を目に留めたって?

ここは某県都市部のショッピングモール。
大小様々、食品、家電や衣類などの店が溢れ返り、何でも揃う場所だ。
最近じゃアングラな情報屋まで取り揃えておりますってか。
ショッピングモールは中心に噴水があって、そこから放射状かつ円形に店が連なる。
その噴水脇のベンチにいろ、と言われてどのベンチだよと軽く毒づきながらウロウロしていた最中の出来事が、先ほどの会話であった。



とにかくまあコーヒーでも飲みに行きませんか?
と、表の世界のやり方で話をする提案をしてみる。
裏の世界の人間がそんな真っ当な場所で茶を啜れるか、ぐらい言われるかと思ったが、だったらいい店があるぜ、とかニヤニヤしながら男は歩き出した。