03. 異門
異界などというと厨二病的である。
非現実・幻想に想いを馳せる男の子、という先入観がある。
私はあまりそういうタイプではなさそうで、むしろとても現実的な人間のはずだ。
その私が真顔で異界について考える状況というのは、だいぶ特殊である認識だがいかがなものだろう。
不慣れなカフェは、初めて訪れた場所にしては居心地が良かった。
紅茶派なので滅多にコーヒーは飲まないのだけれど、お店の雰囲気に合わせてコーヒーを飲みたいと思った。
こじんまりした佇まいより、内装は思いのほかゆったりとしていて、手狭には感じない。
大きめの一人掛けソファに案内されて、ちょこんと座る。
見る限り他に客はいない。
案内してくれた初老の紳士はまさにお店のイメージに違わぬ、レトロな雰囲気を醸し出すひげの素敵なおじさまであった。
オススメのコーヒーをホットでお願いします、と注文した。
雨の中ご来店いただきましてありがとうございます、という声掛けから不自然な印象のない雑談を軽くするけれど、あまり第一印象から人好きしないようである私には刺激的な体験だった。
この空間は異界と繋がっている、という感覚。
つまり、直感的に意中の彼と会うことになるイメージが膨らむ。
彼もこの異空間でしか出会えない状況であるということに理解があるから、将来を望まない刹那的で不思議な恋愛感覚なのだ。
一人の時間、雨の中の散歩、古民家風の素敵な喫茶店と重なって、どうしても心は躍る。
彼は異空間または異界に触れ合う時、通る不思議な道のような場をゲートと呼んだ。
私はまだゲートを認識できたことがないのだけれど、今日で言えばそれはぼんやりと歩いていた先ほどの散歩中に通過したのだろうか。
もし、本当に通ったのだとしたら、という意味だ。
やがて運ばれて来た琥珀色で心地良く熱い液体は、香ばしくてそこにあるだけでとても魅力的だった。
ゆっくりとカップに手を伸ばし持ち上げ、一口すする。
その瞬間、木製の扉が開いた。
店に入ってきたのは漠然と予想していた彼ではなかった。