四歩目はある思い出
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稀代の天才。
幼い頃から今に至るまで、似たような評価を多々受けた。
学業においても、運動その他諸々、実際は自分では秀でた能力を持って生まれたとは思わない。
しかし、周囲と比べると上手くできた。
それは観察と模倣に依るものだ。
他者ができることを自分に取り込む。
特殊な力でもなんでもなくて、よく見て真似する、ということだ。
しかし、それは誰にでもできることではなかったから、僕は天才と呼ばれるのだろう。
僕には妹がいる。
兄妹仲はとても良く、それはずっとだ。
歳を追うごとに、兄妹仲が良い、では済まされないほどに妹の感情はエスカレートしてきた。
恋人以上かと感じるほどだ。
そして父親は代々の家柄と立場などを前面に出して、僕を教育してエリートとして世に出したがっている。
はじめは期待に応えるために学業に励み、褒められることで悦に浸っていたのだが、小学生の高学年になる頃には意図を理解し、興味が失せた。
自らのために成績は維持したが、両親とはどんどん疎遠になり、高校生になると家を出た。
親に頼らぬように自分でアルバイトをしたお金だけでどうにか一人暮らしをして、高校も卒業し、その頃には成績もだいぶ落ちていたがそんなことはどうでも良い。
あまりにも妹が心配するので、妹との連絡だけは取っていたが、大学には進学せず、ようやく学校という縛りのない状況で生活するようになった。
妹には僕からの連絡が丸三日途絶えたら覚悟するように伝えてある。
その場合は然るべき状況に陥っていると踏んでいる。
成人して間もなく、その時は来た。
好き勝手に生きることが許されなくなったのだ。
僕はこの時が来ることを予期していた。
だから、さよなら未知。
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