Grim Saga Project

二歩目は追憶の時

 
 
 

 
 
 
そういえば、何に対しても基本的に無気力でそこそこできてしまうオレが少し熱を入れて生きていた時期があった。
学生時代に音楽こそこの溢れんばかりの才能を生かす場なのだと信じていた頃でもある。
当時様々な音楽を手当たり次第に聴きまくっていて、洋楽・ロック・ジャズ・メタル・J-POPなどなどどのジャンルにも知らないコアな世界が広がっていた。
 
どハマりしたのは、しかしそのメジャーなどの音楽でもなく、無名のインディーズバンドだった。
見るからに頭のネジが飛んでいそうなバックバンドの連中の中には一際目を惹くボーカル。
かき鳴らすような激しい音なのに、どこか切ない楽曲、それを歌い上げる魅力的な声。
ボーカルは、多少ロックな格好ではあったものの、ただのそこらの街行くお兄さん、という風貌。
 
たまたま立ち寄ったライブハウスで一曲聴いて鳥肌が立った。
あの感覚が忘れられない。
心を揺さぶられる、というのはこういうことか、と思わされ、知らぬうちに涙を流していた。
素人の拙いフライヤーを熱心に見て、ネットで情報を漁っては、この無名のバンドが現れる場所を探して足を運んだ。
 
じきに、顔見知りになり、食事をしに行く仲になった。
一際憧れていたボーカルのミライとは色んな話をした。
バンドメンバーも頭のぶっ飛んだ連中かと思っていたら、話してみるとそんなことはなく、人は見た目に寄らないということを思い知らされた。
 
ミライの話はとても面白くてためになることばかりだったが、どこかこう生々しさと非現実の合間にあるような、わかるけれど具体的想像が及ばないような内容が多い。
学生だった自分が兄のように慕っていたミライは、しかし突然行方不明になり、まったくの消息を絶った。