Grim Saga Project

一歩目は異質の世界

 
 
 
界隈では水谷家というのは、有数の金持ちなのだという。
知らぬものはいないほどだ。
零は未知に連れられ、その屋敷に足を運んだ。
 
なるほど。
たしかに一つの家庭というよりは、どこか異国の城にでも一歩踏み込んでしまったかのような異質。
ノーマルな生活の中ではおよそ巡り合わない世界だ。
 
地下にある宝物庫に、様々な希少な品も収められているのだとか。
零にはそれらへの興味はなかったが、そこにグリムの器に関する何らかの情報があるかどうかという興味はあった。
そもそもそれが目的で来たのだから。
 
 
 
「お嬢様、こんな素性もわからぬ者を屋敷の、しかも宝物庫にまで招くなんて、旦那様に知れたら…。」
 
「あら。いいのよ。私が連れて来てるのだから。それとも貴方は、私の客人が怪しいとでも…?」
 
「い、いえ。しかし、万が一、いえ、何はなくとも私どももお叱りを受けます。どうか、旦那様のお許しを先に…!」
 
「んー、そうねぇ。たしかに私のわがままで貴女たちがとばっちりを受けるのはかわいそうね。お父様は今はこちらにいらっしゃるのかしら?」
 
「いえ。次回のお戻りの予定は、来月以降のはずです。」
 
「うーん、それじゃあメッセージでも送ってみようかしら。ばあやは?」
 
「ばば様は今は台所かと。」
 
「私たちは客間に行っているので、ばあやに声を掛けてもらってもいい?」
 
「承知しました。お嬢様、ありがとうございます。」
 
 
 
すべてが異質。
何人使用人がいるんだ。
この家は。
 
客間と呼ばれた部屋に未知と二人でいるわけだが、なんとも居心地が悪い。
家具や調度品、人からそれらの衣服、何から何まで品の良さが滲み出ているのだが、なんというか、こう落ち着かない。
 
しばらく、やたらと深く沈むソファに座っていると、老婆がやってきた。
立ち上がるのに一苦労して、一礼する。
 
 
 
「珍しいですね、お嬢様。突然お客様を連れて参られるなんて。」
 
「ええ。ちょっとね。お父様に連絡は取れるかしら?」
 
「毎日定期的にご報告を入れておりますが、ここのところ確認されるのは夜中のようですので、おそらく今日もそうなると思いますよ。」
 
「んー、電話してお仕事の邪魔をするのも良くないし、そしたらばあや、連絡して宝物庫をザッと見せたいので許可をもらえるように言っておいてもらえない?」
 
「構いませんが、かなりちゃんとご報告しないと許可をいただけないのではないかと。」
 
「それならそれで考えるから、まず一報入れて欲しいわ。」
 
「わかりました。ところでお嬢様、時宗様からご伝言をお預かりしてます。」
 
「風雨から。なんて?」
 
「連絡しなさい。だそうです。」
 
「続きが見えたか。わかった。ありがと。さすがにそろそろ連絡手段を持った方がいいかなぁ。」
 
 
 
老婆が一度退室して、すぐまた戻ってくると風光明媚な、いや、なんというか、古めかしい電話を持ってきた。