Grim Saga Project

059 C18 解釈

 
 
 

 
 
 
「こんばんは。具合はいかがですか?」
 
「ああ、君は、…先日訪ねて来た未知の友人か。気分はまああまり良くはないね。」
 
「そうでしょうね。」
 
「ん?」
 
「亡くなった奥さまは貴方を信じていました。だからそうなのだと信じたかった。」
 
「何を言っている?」
 
「思えばやはり不審な点は多かったのです、元々。志田樹氏との会合の段階ですでに。」
 
「…。」
 
「今回の事案における諸々の全容はわかりませんが、一つだけハッキリしたことがあるんです。」
 
「ほう。」
 
「貴方、水谷夕心氏ではなかったのですね。すっかり勘違いしました。」
 
「どういうことだ?」
 
「しらばっくれるのが上手。そうやって今までも数多の困難を切り抜けてきたのね。貴方が志田樹。たびたび水谷夕心と入れ替わっていた。」
 
「何を根拠に。」
 
「まず、伝えておくのはこれは私ではなく、私の器が気付いたことだということ。だから間違いはありません。」
 
「そうか。」
 
「白衣とぼさぼさの髪の毛は、身なりにおける人間の印象をだいぶ偏らせることができますね。それだけでカモフラージュとしては十分成り立っています。あまり会っていなければ未知も気付かないほどですもの。入れ替わっていた理由は知りません。おそらく知っていたのが、堤さんだけだったんです。そうすると、ほとんど説明はついてしまう。」
 
「ふふ。君の器はなかなか優秀なようだね。ただ、私も一つ伝えておきたい。堤くんがいなくなったのは私の仕業ではないよ。」
 
「なるほど。貴方が消した線はあると思っていましたが、そうでなかったのなら良かったです。その可能性が高いと判断していたら、私はここには来ていません。リスクが高すぎる。」
 
「ああ、たしかに。」
 
「聞きたいことはたくさんあるのですが、それらを全部聞いて全容を解明しなきゃいけない理由は私にはありません。誰かにそれをしてもらう意図もない。だから、あの時のメンバーの誰かに告発しておこうとも思っていません。」
 
「賢明だ。」
 
「だから、一つだけ聞きに来ました。」
 
「なんだね?」
 
「未来さんは誰の子なのですか?」
 
「くく、ははは。本当に君の器は冴えているようだ。まさか、こんな形で真相に近づく者が出てくるとは思っていなかった。楽しいなあ。」
 
「それで?」
 
「わかっているんだろう?未来だけ、私の、志田家の子なのだよ。もちろん母親は未久だがね。」
 
「それでわかりました。堤さんが殺そうとしたのは水谷夕心氏ではなく、貴方、志田樹とその息子の志田未来だったというわけですね。はあ、これで終わりにしたかったけどそうも行かないなぁ、これは。」
 
「どういうことだね。君には関係ないだろう。」
 
「ええ、そうですね。私には直接は関係ない。ただ、これで私の器がこれを私に伝えてきた理由も明確になりました。ありがとうございました。」
 
「ちょっと待ちたまえ。」
 
「さよなら。願わくば二度と貴方とはお会いしないことを祈ります。」