056 C16 無器の記憶
結局今回理解は深まったが、欲していた情報が取得できたわけではなかった。
もう一つ、漠然と感じたことがある。
それは俺の持つ不思議な鎖、グリムの器は似たような特性を持つ様々なアイテムとして存在するようなのだけれど、それらを扱う人々も実はよくわかっていないのではないか、ということ。
あまりに落ち込み過ぎて、思考がネガティブに向いていたこともあり、自分だけが知らない・わかっていない、と決め付けていたように思えてきたのだ。
断片的な情報から、みんなも試行錯誤して、情報を集めながら扱っていただけなのではないか。
一つ試したいことがあった。
俺の神が指摘した通り、約定天鎖は死んでいなかった。
だからうまくいく・いかないはあるにせよ、なんらかの記憶を引き出して覗き見る能力は有効なのである。
発動の条件が未だ曖昧なため、そこはまだ模索する必要がある。
で、その対象がグリムの器だった場合どうなるのか、ということである。
未来が無事であったことを確認できた。
それだけで思い残すことはないと思ったのだが、もう一度だけアンノウンに会っておいた方が良いなと思った。
ナスのやつが、言っていたヴォイドを一目見ておきたくもあった。
とても気乗りはしなかったが、贅沢を言っていられる状況でもない。
仕方ない。
じいやだかばあやだかのサンドイッチを食わせてもらいに行くか。
†
「ふむ。客だ。」
「え?誰?」
「貴様の友人だ。だが些か面倒だな。我に関心を持っている。」
「ああ、ゼロか。面倒なのね。帰す?」
「好きにすると良い。面倒だが構わぬ。」
「ふうん。じゃあ面倒に付き合ってもらおうかな。」
「良かろう。」
†
「で、つまりお見通しってことか。」
「私はお見通しじゃないけどね。ヴォイドにはわかってた。」
「へえ。じゃあ俺が何しに来たかも?」
「貴様の持つ器で我の記憶に触れるのはやめた方が良い。」
「え?」
「容量が違う。脳が耐えられまい。」
「あら、そういうことなのね。意外。優しいんだ。」
「この者の脳が吹き飛ぼうがなんだろうが我には何の影響もないが、後始末や周辺環境その他面倒が増える。」
「ああ、ホントね。たしかに面倒が増えるわ。」
「マジかよ、おおこわ。もう何も言う前にわかってんじゃホントなんだろな、悪かった。たしかにこれだとアンタの面倒を増やしただけだ。」
「ほう。聞き分けも察しもいいな。計算とは違って意外と面倒が少ない。」
「それってつまり、短期間でゼロが成長したってことよね。」
「我は未来のすべてを見通すわけではないからな。演算がズレるというのはおそらくそういうことだろう。」
「じゃあ好奇心はどうでもいい。グリムの器が何なのかだけ教えてくれないか。」
「あのね、ゼロ。アンタに教えたキホンがあるじゃない。それ以外に何が知りたいの?」
「何が、知りたいか…?」
「つまりさ、まだ一般常識で測れないモノを受け入れられてないだけだよ。」
「そうか、答えはなかったのか。」
「面白い。我の演算とこうも異なるものか。若人、貴様の解釈は正しい。答えを求めている人間が答えがないことに気付けるというのは稀有だ。愉快である。」
「あら、たまには面倒も良かったのかもね。」