Grim Saga Project

055 B18 愛おしさのかたち

 
 
 
なるほど。
梨紗さんの見立てはさすがだと思った。
水谷夕心と堤さんの間に色恋が絡む可能性は微塵も思い付いていなかった。
なんとなく自分が急に子どもな気がする。
 
堤さんのことを考える。
少なくとも、彼女が倒れたのは脱出のための瞬間移動が理由で、美愛と私はほぼ無傷、瞬は落ちた場所が悪く崩落に巻き込まれたが、堤さんはどうだったのだろう。
例えば、そんなに痛手を追っておらず、確実に離脱できる機会を伺っていた結果、病院からの脱出になった、という可能性はあるだろうか。
微妙である。
 
別の可能性としてあり得そうなのは、実際瞬間移動の時に落ち方が悪くて、大怪我をしたケース。
血は流れていなかったはずだけれど。
打ちどころが悪く、実際見たまま気を失っていたが、大した怪我ではなかったという可能性が一番高そうか。
 
私が見聞きできなかった、事件当時の情報も梨紗に補足してはもらって何が起こったかはおおむね分かった。
梨紗の考えとはいえ、なぜ起きたかについても現実味のある理由付けはある。
しかし、仮に私たちが水谷親子の救命に失敗していたとしたら、あのあと堤さんはどうしたかったのだろう。
何をするつもりだったのだろう。
 
愛する人を亡き者にするような異常な心情の想像はできない。
私が瞬をこの世から消したいと思うことはあるだろうか。
仮に彼が私と一緒にいる、今は当たり前になったり、ようやく受け入れられた現状が変化して、別の誰かと人生を歩む選択をした時に、私はそんな風に思うのだろうか。
否、彼には感謝しかない。
もしそうなっても、少し自信はなかったが、彼の幸せを願える、というのが自分の中の希望的観測である。
 
知らないうちに私の頬を液体が伝っていた。
 
 
 
「凛ちゃん、大丈夫?」