054 A17 人間はそれでも考える
ちょうど私も話したいと思ってたんだ。
凛ちゃんに返信した。
尚都にも瞬にも秘密にする必要などなかったのだが誰にも言わずに二人でお茶をしに行くことにした。
とにかく瞬が大事に至らなくて良かった。
もしそんなことになっていたら凛ちゃんとこんなに早く話す機会は持てなかった。
さて、情報交換だ。
しかし、いつだって確実な正解がわからないのは動機なのである。
「で、凛ちゃんは何が知りたいの?」
「うわあ、早いですね…。」
「うん。長くなるかもしれないし。私からも色々聞きたいことはあるんだけど、凛ちゃんが先の方がいいかなって。」
「はい、ありがとうございます。そしたら先に聞いていきますね。まず、堤さんがなぜ水谷所長と息子の未来さんを殺そうとしたかは掴めているんですか?」
「うん。私も知っての通り、今戻ってきたばっかりなのよ、あっちから。だから、改めて伝えなきゃなんだけど、堤さんはいなくなった。だから動機は未だ不明。」
「え?」
「水谷親子が搬送されたのと同じ病院なんだけどね。翌日病室もぬけのから。自分で出て行ったのか外部の協力者が連れ出したのかすらわからない。」
「そんな…。水谷夕心所長と水谷未来氏は?」
「うん。二人は無事。意識も戻った。だけど、まだまともに話は聞いていないようね。吸わされていた薬が強かったせいか、だいぶ朦朧としていたようで。私は会ってもいない。」
「もったいぶる意図はないので先に私が考えたことをお伝えしておくんですけど、ヴォイドはイレギュラー要素だったので一旦置いておくと結局今回のことのすべてはアンノウン、水谷未知さんの思い描いたシナリオじゃなかったかと思えてきてしまいました。どうしてもわからないのは、ヴォイドが拘束されていた理由とそれに伴う水谷親子が狙われた理由。どうして水谷親子と堤さんは対立するような構図になってしまったのか、その辺りが三人から聞けたらもっとスッキリする気がしてしまって。」
「凛ちゃんもなかなか考えるね。実は私もアンノウンが今回の首謀者なのかなってちょっと思ってた。理由は凛ちゃんが考えたのとほぼ一緒。ただ堤さんが水谷親子を狙った理由については、完全に推測の域を出ない予想ならあるよ。まず夕心の妻、未来と未知の母親、松浪未久にはヴォイドを拘束する意図はなかったのではないかと思うんだ。未久博士の永年の研究はおそらくヴォイド、グリムの器に関するものだった。そのための研究施設の延長があの研究所だったんじゃないかな。急に飛躍するようだけど堤さんは水谷夕心を愛してしまったんじゃないかと思うんだ。心酔していた、と言ってもいい。これは私の主観だけどね。なんだけど、ヴォイドと松浪未久は結局、未だに水谷夕心の心を掴んで離さなかった。だから邪魔だったんじゃないかなって感じちゃって。水谷科学研究所は、水谷夕心を中心としたグリムの器の研究所で、しかもヴォイドの力を吸い出し続けながら永久機関にも近い何かを生み出す研究をしていたんじゃないかと思う。凛ちゃん、実際ヴォイドを捉えていた機械見たんだよね?私の推測から大きく外れる?」