051 C14 その器は神か悪魔か
私は魅入られた。
ヴォイドが初めは恐ろしかったが、母・松浪未久との対話を繰り返したこの謎の存在が自分を主に選んだことの意味を考えた。
そして、私も彼と対話をするようになっていた。
「貴方と母は深く通じていたのね。」
「我が、人間と…?ふふふ、はは、面白い。そうかもしれない。」
「貴方は私がこれまで見聞きしたどの器ともだいぶ違うようね。」
「その比較に何の意味がある?」
「そうね。意味はないわ。んー、考察かしら。」
「なるほどな。たしかにまだこの世に興味深い人間はいるものだ。」
「神と悪魔は何が違うの?」
「人間の主観のみではないか。」
「たしかに。貴方は神や悪魔を知っているの?」
「その質問はどういう解釈をすれば良いかわからぬな。」
「神、または悪魔だと思われる存在と通じているのか、という解釈をしてちょうだい。」
「ふむ。答えはYESだ。」
「では貴方は神、または悪魔?それともグリムの器?もしくはそのどれとも違う存在?」
「グリムの器ではある。あやつらの血が我を生み出したことは間違いがないからだ。しかし、神や悪魔に相当するかどうかは我が決めることではない。」
「母は囚われの感情を抱いていた?」
「貴様と同じだ。」
「え?」
「その発想は、つまり我がいつでもミクも貴様も屠ることができる、という前提が生んでいるし、その自覚があることを我に伝えることを恐れていない。」
「なんだかんだ私もお母さんに似てるのかしらね…。」
「その質問は面白いな。」
「今のは質問じゃないわ。」
「そうか。では答える必要もないな。」
「あら、じゃあせっかくだから質問にしようかしら。私と母は似ている?」
「人間の個性という観点での適合率はおよそ37.4%だ。」
「一般的な適合率はどの程度?」
「我の観測による個性の適合率は8.2%。8割以上が5%から11%の間に収まる。」
「なるほどね。激似だわ。」
「貴様がミクの娘だということは疑いようもないな。」
「母は貴方と何をしようとしていたの?」
「我と共に何かを為そうとはしていない。」
「ちょっと聞き方を変えるわね。貴方と出会ってからの母は、何を為そうとしていた?」
「我の能力を解析しようとしていた。」
「解析した結果どうしたかったかはわかる?」
「わからない。」
「貴方の解釈は?」
「あくまでも想像の域を出ないが、我の能力を数式化することで再現できないか、と考えていたのではないかと考える。」
「数式化…、再現…。母は楽しそうだった?」
「ミクはいつも楽しそうであったよ。大変興味深い人間だ。」
「ふーん。適合率37.4%の私も気に入ってもらえたのなら良かったけれど。」