043 X02 悪魔
ヴォイド。
一振りの黒い刃物がそう名乗った。
…はずなのだが、声を聞いたというよりは脳に響いた。
ようやく現世に解放されたと語る。
いわく、この悪魔は科学的な力に拘束を受けていた。
そうすると、堤氏はヴォイドを拘束していたということになる。
彼女の研究所・特別研究室を燃やしたことの意図はどこにあったのだろうか。
水谷親子の殺害計画の様相もだいぶ見え方が変わる気がする。
仮に堤氏がこの悪魔の解放を阻止する意図で動いていたとしたら、もしかしたら私たちのしたことは正しくなかったのではないだろうか、とすら思える。
しかし、だったら彼女はなぜそう言わなかった。
水谷親子はどこまで何を知っていたのだろう。
もはや、彼らが目を覚ますまで知る由もない。
この黒い悪魔が人に仇なす存在だとしたら。
私はどうすれば良いだろうか。
戦って勝機はあるだろうか。
少なくとも仲間たちは逃さなくてはいけない。
元より私の目的のために、それぞれの目的を重ねて動いてくれているとはいえ、ずいぶん私に都合の良い動き方を彼・彼女たちが望んでしてくれてしまう。
この辺りが一度、私のエゴを破壊すべき好機なのではないか。
どう思う?と小さな声で呟いたが、リリルは何も答えなかった。