042 X01 暗黒
はじめはなんだかわからない違和感だった。
次第に不穏な地響きを感じるようになり、低くゴゴゴゴゴという魔獣が唸っているかのような音が聞き取れるようになる。
地震。
いや、本当にこれは地震なのだろうか。
すぐ目の前の水谷科学研究所が大きく揺れている気がするのだ。
地震だとしたら震源地はここだと言わんばかりの奇妙な感覚。
空が暗い。
元から暗かったが、ほんのり月明かりが照らしていた光が消えた。
黒く分厚い雲が空に掛かってきたのだ。
やがて音はだんだんと大きくなる。
揺れも激しくなるが、震えているのは地面ではなく大気であると思わされた。
かつてない異常。
もはや自然現象とは思えない。
やがて、研究所の一部の壁がボロボロと崩れ落ちる。
建物自体が劣化していたとは考えづらい。
特に地下は先進的な内装にデジタルな仕組みもたくさん施されていたが、そうでない地上階も十分に新しく、経年によって崩れそうな気配など微塵もなかった。
つまり、この異常現象のせいだといえる。
もう立っていることすら危うかった。
いや、待て。
まだ中に人がいるではないか。
少なくとも四人。
瞬、凛、美愛、そして堤。
まさに顕現とでも言えば良いだろうか。
四人の安否を確認するまでもなく、神がその姿を現したかのようだった。
しかし、それは神というには禍々しく、どちらかというと悪魔。
黒い獣のような印象を受けたが、よく見るとそれは一振りの刃物である。
崩れ始めた研究所の一角から飛び出して、それは空中に浮いていた。