036 B13 切なる心
「ちょっと待って。」
「ん?何?」
「多分グリムの器だ…。」
「え?堤さんのそばに器があるの?」
「うん。遠くてあまり細かくはわからないけど、真っ黒いナイフのような感じ。PCから少し離れたところ、箱に入れられてる。よくわかんないけど、監禁されてるみたいな印象。」
「未久さんを投影した器だよね、きっと。」
「何らかの理由で堤さんに行動を制限されてるイメージかなあ。」
「どうする?凛ちゃん、戻る?」
「瞬、いい?」
「助けたい。あの器と話がしたい。」
「ペアに相談した方が良くない?」
「そうかもしれない。…けど、なんかここで戻るのは見捨てるような気がしてしまっていやだ。」
「なんですぐに器を連れて逃げなかったんだろね。」
「わからないけど、なんだか妙に緊迫している印象を受けるんだ。できなかったのかもしれない。」
「あー、もう!それやったらもうやるっきゃないっしょ!凛ちゃん、作戦!」
「うん。美愛、ありがと。…うん、よし、まずはそばに飛ぼう。もう少し近くなら詳しくわかることがあるかもしれない。」
†
「さあ。これで諦めたかしら。」
「…。」
「もう一度言うわ。タイムリミットなの、もうすぐ。松浪未久ももういない。貴方がたった二つの希望にしていた水谷夕心と未来も消した。これで私をマスタと認めないならこのまま貴方を破壊するしかない。」
「…。」
「サヨナラ、名もなき器。」
「愚かだな、人間。」
「…!力は見せたでしょう?」
「貴様にとっての力は無為なる暴力でしかなかった。徳はない。未久とは真逆。それでは器は愚か同族である人間にも認められまい。…もう一つ教えてやろう。水谷夕心と未来は生きている。」
「そんな馬鹿な!あの火の中で生きられるわけがないでしょう?私の動揺を誘う作戦ね、見え透いているわ!」
「証明してやろうか?我には何の意味もないが、少し面白くなってきた。」
「何が面白いって言うの?」
「なに、永劫の命を持つに等しい我にとっても、こうした予期せぬ出来事というのは愉快なものなのだと知れたことは収穫であった。」
「予期せぬ…、何が起きてるって言うの!?」
「そこの招かれざる三人、入ってくるが良い。」
†
「ちょっとちょっとちょっと。なんなん?ウチらのことバレてるやん。」
「来るが良い、って言われても…。瞬。どうする?」
「ふふ。いいよ、行こう。良かった、逃げなくて。ただ、ちょっと誰にも危険は負わせたくない。万全で行く。」
「何をどうしたら万全になんのよ。」
「うん。腹が立ってるんだ、僕は。あとね、下手したら堤さん自決するよ、これ。あの黒い器を手に入れることが目的だったんだ、全部。絶望だけ与えて去ってもいけない。あの器も助けたい。ふふふ、どれも許さない。」
「わ…、瞬、めちゃくちゃ怒ってるね…。」
「うん、凛は炎使わなくていいよ。暴力はあまり好きじゃないけど、死なれては困るからね。美愛、一つだけ確認したいんだけど。」
「ん?なにー?」
「今の美愛は人一人だったら親密度が高くなくても一緒にテレポートできるの?バルミーとかアンノウンの時みたいに。」
「あ、わかった。堤さん連れて戻んのな?多分できるよ。ウチの考え方である程度いけるようになったの。バルミーたちの時は大事な仲間なんだな、って思ったからそういう風に思いっきり一瞬で信じたのね。」
「え、美愛、そしたら堤さんはどうやるの?」
「うん、あのね凛ちゃん。親密だけじゃなさそうなんよね。ウチが連れてけるための条件。えーっとね、親密以外でもイケる感覚で言ったら、なんて言うかな、切迫度、かな。」
「つまり真剣に連れて帰らないとマズいって思えればいいわけか。じゃあたしかに。堤さんを生きて連れ戻せるかどうか、美愛に掛かってる。頼む。」
「しゃーないなぁ。がっつりやったる。」